Crimson Fight! -Rely on Subordinate-

 


「ねぇ、聞いた?」
「何を?」
「ほら、クレア様とアドレー様・・・」
「ああ、聞いた聞いた! 壮絶よね〜・・・・」

 平穏なシランド王城。そんな会話が飛び込んできて、何事かと耳を傾ける少女達がいた。

「どっちが勝つと思う〜?」
「やっぱアドレー様じゃない? ほら、そんな感じっぽいじゃない」
「でも、クレア様も黙って見てないわよねー」
「そうそう、クレア様って、ネル様のことになると人格変わるわよね〜」
「言えてる〜!!」

立ち聞きしても、何の話なのかよくわからない。
どうやら、クレアとアドレーが勝負かなにかしているようで、それにネルも関わっている・・・・と取れた。

「・・・・・何の話だと思う? ファリン」
「さぁ〜・・・・ちょっとシランドをお留守にしてたら、結構面白いことになってるみたいです〜」

封魔師団「闇」の構成員、タイネーブとファリン。当のネル直属の部下だ。
シランド城内を歩きながら、話に興じる。

「アドレー様って、任務で遠方に行ってたんでしょ? 戦争で一時的に戻ってきたって聞いてたけど・・・・・」
「もうすっかり居座るおつもりみたいです〜」
「・・・・そういえば、よく口ゲンカしてたよね・・・・クレア様と・・・・・」
「口ゲンカっていうか〜・・・・・一方的にクレア様が怒ってましたね〜」
「またなにか・・・・・始まったみたいだね・・・・・」
「ケンカするのは仲がいい証拠ですよ〜? ・・・・でも、私達に関係ない場所で思う存分やってもらいたいです〜」

何気にひどいことを言うファリン。しかし、それにはタイネーブも同意なわけで。
巻き込まれさえしなければ、面白い話題のタネではある。
だが・・・ネルが関わっているとなると・・・・・彼女たちは嫌な予感を隠せなかった。

「そこのおなごしゅう!」

そして、ひときわ激しい男の声が響く。
それはヘタしたら彼女たちを地獄へと導く悪魔の声。
タイネーブとファリンは聞かなかったことにして歩みを速めた。

「これ! 待たんか! おぬしたちじゃよ!」

しかしタイネーブとファリンは歩みを止めない。
あの声が呼んでいるのは自分たちではない。自分たちではない。・・・・そう思い込むために。

「これ! 呼んでおるのが聞こえぬか! 茶色と紫のおぬしたちじゃ! ・・・しかし茶色はあれでもおなごなのか? やけに胸とか尻とか貧そ・・・・ぐはっ!!!

関わりあいになりたくないのに。
タイネーブはほぼ本能的に(仮にも元)クリムゾンブレイドに蹴りツッコミを入れてしまっていた。





「す、すみませんっ・・・・!! つい反射的に・・・・・」
「いやいや、ワシも悪かったわい。 気にするでないぞ」

 結局アドレーに付き合わされることになり、城の一室に3人集まった。
思いっきり蹴ったんだけど・・・・・タイネーブはチラリとアドレーを見やるが、痛がる様子もなくピンピンしていた。
それでこそアドレー様らしいです〜、などとファリンは呑気なコメントをしていたが。

「・・・で〜、お話ってなんでしょうか〜?」
「おお、そうじゃ。おぬしたちに聞きたいことがあったのじゃ」
「聞きたいこと?」
「うむ」

アドレーはあごひげをいじりながら、あけっぴろげに告げた。

「あの娘は・・・・ネルはアルベルと付き合っておるのか?」




『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?』

思わずハモってしまった。
しばし呆然としている二人をよそに、アドレーは続けざまにまくしたてる。

「おぬしたち、ネルの一番の部下と聞いたぞ。そういう話のひとつも聞いておるかと思うてな。どうじゃ? 付き合っておるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あ、あの・・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「話の中身がよく見えないんですけど・・・・・」
「そうか? いやぁ、なに。ネルももう年頃じゃし男の一人や二人や三人もおるかのうと・・・」

三人もいちゃいかんだろ。

「・・・どうして〜、アドレー様がネル様のことを〜? クレア様なら話もわかりますけど〜・・・・・」
「ふむ、まぁ・・・・クレアと歳が近いせいもあるし、半分娘みたいなものかもしれんな」

ネル本人が聞いたら全力で否定しそうだ。

「・・・・で、どうしてそこでアルベルさんが・・・・・」
「ほう? 知らんのか? ネルが国を出ている間もずっと一緒に旅を続けていたのじゃぞ。
ワシの目には、仲睦まじいように映ったが、実際はどうなのかと・・・・・知らぬのなら仕方ないが」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

返答に困る二人。
そして・・・・クレアとアドレーが勝負とか言っていたのはきっとこのことなのだと悟った。
クレアは明らかにネルとアルベルのことを反対している。常々ぼやかれるのだから間違いない・・・・・

「・・・・・私たちは詳しいことは聞いてないんです〜・・・」
「そうなのか?」
「はい・・・・ネル様もそこまでは打ち明けては・・・・・」
「あたしがどうかしたのかい?」


!!!!


バッと部屋の入り口を見やるタイネーブとファリン。
扉を開けかけて立ち尽くしている様子のネルの姿がそこにあった。
どうやらつい今しがたやって来たようだが・・・・・

「ネッ、ネル様!!」
「な、なんでもないです〜・・・・!」
「でも、あたしのこと話してたんじゃないのかい」
「ネル、丁度よいわ。おぬしに直に聞くが一番速そうじゃ」
「?」
「おぬし、あやつとは・・・・ア」
「お父様っ!!!」



今度は女性の怒号。誰なのかなんて、見なくてもわかりきっていた。
ネルに続いて、今度はクレアが部屋に入ってきた。

「おお、クレアか」
「お父様、こんなところで一体何をなさっているのですか! 行きますよ!」
「しかしクレア、わしはネルに大事な話をだな・・・・」
「い い か ら 行 き ま す よ!!」

言いよどむアドレーを無理やり押し出して、クレアはネルたちににこやかに笑いかける。

「それじゃあ、ごきげんよう」


バタン・・・・



そして残される3人。

「・・・・・どうしたんだい、クレアは・・・・・」
「さぁ・・・どうなさったんでしょうねぇ・・・・・」
「わからないです〜」

多分・・・・勝負とやらの邪魔をしにきたに違いない。でもわざわざネルに言うことではない。

「・・・どうも、この前から二人とも様子が変なんだよね・・・・」
「この前って・・・」
「ああ、アーリグリフ王とロザリアの結婚式からさ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

ああ、きっと・・・・・・それに便乗してアドレー様が結婚がどうだこうだと言い出したんだ・・・・・・・
タイネーブとファリンは顔を見合わせた。
どうする? 正直に言ってみる? アドレー様に聞かれたこと・・・・
でも〜、なんだかデバガメみたいでちょっと気が引けます〜・・・・
でもアドレー様あの調子じゃ、ネル様に問いただすのも時間の問題じゃない?
クレア様怒りそうです〜・・・・あの方の報復ってコワイんですよ〜?
ええ、知ってるけど・・・・・でも・・・・・ネル様の幸せのためでもあるんだよね?

「何をコソコソ話してるのさ」
『なっ、なんでもないですっ!!』
「・・・? まぁいいか」

あんまり気にしない素振りのネルを見て、さらにコソコソ。
本当のところ・・・・ネル様はどう思ってるのかしらね・・・・
知りたいです〜
もしも・・・・もしも、ネル様本当に・・・だとしたら、応援する?
もちろんですよ〜・・・・あ、でもクレア様の報復がコワイかもです〜
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だよね。

とりあえず・・・・波風立てないのが一番だと二人は思った。
本当にせよそうでないにせよ、いずれはなんらかの形で結果が出るのだろうから。
暖かく、ネルの幸せを見守ることにした。



とはいえ・・・・・
団員の間でクレアとアドレーの勝負はどちらが勝つか賭けネタにされていることなど、彼女たちは知る由もなかった。




to be continued...





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