Crimson Fight! -Early Morning-

 


 ひどく頭に響く音。嫌な音だ。
非常に不規則に、それでいて止むこともなく続いている。何の音だ?

ふと、目を覚ました。

やはり、音は続いていた。どうやら、玄関の方で誰かがノックしているようだった。
しかし・・・・・窓の外はまだ日が昇るか昇らないかの明るさ。
ちくしょう、一体どこのどいつがこんな朝っぱらから、人んちに乗り込もうとしてやがるのか・・・・・・
面倒くさかったが、寝台から起き上がった。そして、玄関へと向かう。
うるせぇ音だ。そんなに叩いたらドアが破れるだろう、阿呆が・・・・・
念のため刀を手にして。少しだけ扉を開けた。
「・・・・うるせぇ・・・・・何時だと思ってや・・・・」
「おお!! やっと起きたか!! 全く、いい若いモンがいつまでも寝ているものではないぞ、わっはっはっは・・・・!!」


・・・・・・・・・・・



これは、幻聴か?
今・・・・隣のシーハーツでも扱いに困ってるらしい、元クリムゾンブレイドのヒゲジジィの声がしたような気がしたが・・・・・・空耳か。
扉を閉めた。
「こら! 扉を閉めるでない!! 客が来ておるのに、その態度はなんじゃ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうやら・・・・・・夢でも見ているのか・・・・・・

バタンッ


うおっ!?
急に扉が開けられて、外からガタイのいいヒゲジジィがこちらを見ているのが見えた・・・・・
・・・・見なかったことにしたいんだが・・・・・・
「今日もいい朝じゃぞ、アルベル」
呼ぶんじゃねぇよ!
思いっきり睨みつけてやったが、ヒゲジジィは全く意に介さずに人の家に侵入してくる。
まったくいい度胸してやがるな・・・・・

スチャリ・・・・

「待たんか! いきなり抜刀はないじゃろうが!」
「人の許可も得ずに勝手に人んちにズカズカ押し入るような輩には、こうすることにしてんだよ」
刀をヒゲジジィの喉元に突き出した。しかし、やつは動じない。
「まぁ待て待て。これでもワシは客じゃぞ?」
「客は人んちに勝手に入ってきたりしねぇよ」
「そう固いことを言うでないぞ。一緒に生死を共にした仲間じゃろうが」
「テメェとそんなものを共にした記憶はねぇ」
「ほれほれ、客が来たんじゃから茶のひとつでも入れんか」
「何くつろいでんだテメェ!! たたっきるぞ!!」
だが・・・・それでもヤツは動じない。・・・・・なるほど、シーハーツの連中が扱いに困るわけか・・・・・
がっくりと、うなだれた。


「お主、なかなか良い家に住んでおるではないか」
 椅子に座って、すっかり我が物顔でくつろいでいるヒゲジジィ・・・・アドレー。
「俺の家じゃねぇよ」
「ほう?」
「借りてるだけだ」
「ウォルターにか。愛されておるのう」


ぶぅぅっ!!!


がっ、ゴホッ! ゲホッ!
な・・・・・何を言いやがるんだ、この親父は・・・・・・!!?
「お主がここにいると、さっきウォルターに聞いてきたのじゃよ。
あちら(屋敷)にいなければ、ここ(別家)にいるじゃろうとウォルターがゆうておった。当たりじゃな」
「・・・・・・・・・・・・・・あのジジィ・・・・・・・・・・」
憎しみをこめて呟きながらも、ウォルターのじじぃもまたこのアドレーの被害をこうむったわけか・・・・そう考えると少し笑えた。
・・・・ヒゲオヤジめ、なにやら室内を見渡している。
訝しんでジジィを見ていたのだが・・・・・おもむろにこちらを見て言い放った。
「ふむ、悪くない家じゃな。これなら新居にうってつけじゃ」

は?

「子供は3人くらいが理想じゃぞ。一人もよいが、それが娘だったら嫁に行った後寂しくなるじゃろうし・・・・・」
「おい」
「ここならシーハーツ領にも近いし、安心できるじゃろう・・・うんうん」
「おいって」
「挙式はやはり、アルゼイみたいに行うのかのう?」
「ヒトの話を聞けっ!!」
激しくテーブルを叩いた。が、ヤツは平然としている・・・・・・さらに憎しみが増す。
「・・・てめぇ、さっきから何をワケわかんねぇことをゴチャゴチャと・・・・」
「何を言う。照れ隠しか?」

ブッ殺すぞジジィ!!

「アレは器量もよいし、家事もできるし、よい娘じゃ。ちょいと激しいところはあるが、お主なら死にはすまい」
さりげにとんでもねぇこと呟いてやがる・・・・・・
「改めて聞きなおす。テメェは一体何の話をしてやがるんだ? 娘って誰のことだ」
・・・・ヒゲジジィはいきなり、異様なニヤケ顔になった。
「何をゆうておるか・・・・ネルとの結婚話に決まっておろう」



ガタガタガタァッ!!




・・・・痛・・・・・・お、思いっきり頭ぶつけたじゃねぇか、阿呆・・・・・・・
い、いや、そんなことよりも!
「け、け、結婚だぁ!? 何を寝ぼけたことぬかしてやがる! 老人ボケかよ?」
「ワシは至って正常じゃ」
「なんでネルの名前が出てくるんだ!」
「・・・・・・隠さずともよい」
な、このクソ虫、妙にしんみりした表情になった。
「例え世界中がおぬしらの仲に反対しようとも、ワシだけは応援しておるからな?」
「そういう次元の話してんじゃねぇっ!! そもそもなんでアイツとそんな話になんだよ! 頭沸いてんじゃねぇのか!?」
「がっはっはっは、照れるな照れるな!!」
「違うっ!! そういうレベルの話でもねぇ!!」
なんなんだこのオヤジは・・・・・朝っぱらからやってきたかと思えば、何が結婚話だと・・・・・・・

「・・・・・・・イヤなのか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!?
な・・・・・・・
い、いやとかそういう・・・・・次元の話でもなくてだな・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・まだまだ青いのう」
「・・・・っ!」
返事しきれずに黙ってしまった・・・・・チクショウ!
肯定しちまったようなもんじゃねぇか・・・・・・!!
違う! 違うんだ!
・・・・違う? 違うんだろうか・・・・・?



コンコン


? またノックの音。今度は普通のノックだ。
ちょうどいい、この場から逃げ出したかった。玄関に向かって、扉を開けると・・・・・・
「おはようございます」
・・・・にこやかで、それでいて何か隠し持ってるような笑みを浮かべた銀髪の女が他数人引き連れて立っていた。
確か、あのアドレーの娘・・・・・・・
「朝早くからすみませんけれど、父が・・・・アドレーがお邪魔してませんか?」
「ああ。邪魔だ」
「・・・・・・・・・・やっぱり・・・・・・・・・・・・」
途端に険しい顔になる女。他の連れに目配せで合図をすると、
「父を引き取りに参りました。連れて行ってもよろしいでしょうか」
俺は即答していた。
「歓迎する」
「わかりました。・・・・・・お父様っ!! さっさと帰りますよ!!」
「おお!? クレアではないか・・・・こんな朝早くに男の家に来るとは・・・・・夜這いか?」
「バカなことおっしゃってないで帰りますよ!!」

・・・・今、何か凄まじい打撃音が聞こえたが・・・・・

と、女が俺のところにやってきてこう言った。
「アドレーお父様の言ったことは全て忘れてくださいね。・・・・覚えていたりしたら・・・・それなりのお覚悟を」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・行っちまった。くたばってたジジィも引き連れて。
何なんだ、一体?
親子揃って、とんでもねぇもんだぜ、全く・・・・・・



ただ。
以後、公務なんかでシーハーツに向かった際、あのオヤジにはやけに親しくされて、あの娘にはやけに殺意を向けられるようになった。
一体、俺が何をしたんだ・・・・・・




to be continued...





戻る