Crimson Fight! -First Contact-

 


 誰にも知られない戦いが終わり、世界は崩壊を免れた。
それから少し後のこと。


 エリクール星に存在する国家、聖王国シーハーツでは戦後の復興に追われていた。
隣国アーリグリフとの戦争はお互いに深い爪あとを残し、星の船という第3勢力の登場によってその幕はあっけなく閉じられた。
以後、両国は以前のような友好関係を改めて築こうとしている。
この度アーリグリフ王都にて、アーリグリフ王国国王アルゼイとシーハーツの大神官の娘ロザリアとの挙式が執り行われていた・・・・

両国の賓客が見守る中、式は滞りなく行われた。



「・・・・・・・・キレイ・・・」
 思わず、彼女は呟いていた。
聖王国シーハーツの光牙師団「光」団長にして現クリムゾンブレイド、クレア・ラーズバード。
普段の彼女はクリムゾンブレイドとして仕事に精を出すものの、やはり年頃の女性。
ロザリアの艶やかな晴れ姿に、ついつい見入ってしまったようだ。
その呟きを近くで聞いていた者がいた。
「まったくじゃ・・・・しかし、お前でも憧れるんじゃな」
先代クリムゾンブレイド、アドレー・ラーズバードだった。彼はクレアの実父である。
「・・お父様、何気に失礼ですわ。・・・私も一応は女なのですから」
「そうじゃな。いつかお前もああやって嫁に行く日が来るんじゃろう・・・・・・」
「・・・・・・・・・・そうですね」
「一体、いつになることやら」
「お父様!」
ムキになって見返す娘を見下ろす父親。
「仕方ないじゃろうが、浮いた話のひとつも聞きやせん・・・・・
さっさと嫁いでしまうのもなんじゃが、いつまでも売れ残るのも複雑な心境じゃ」
「売れ残るってなんですか! 妙な言い方はやめてください!」
「おお、すまんすまん」
「私は私なりにやりますから。お父様はあんまりお気になさらないで下さい・・・」
「そうと言われてものう・・・・・・ん? おお、そうじゃ、あやつはどうじゃ」
「何の話ですか!」
アドレーが指差す先には、アーリグリフ3軍「漆黒」の若き団長アルベル・ノックスの姿。
「あ・・・・あれは・・・・・・!」
「短い間ではあったが共に旅をして、なかなか見所のある若者だと思ったぞ。
そうじゃ、そうするといい、お前もアーリグリフに嫁げ」
「お父様・・・!! 何を勝手に・・・・・!!」
「ん? クリムゾンブレイドに空席ができることを心配しておるのか? がっはっはっはっは!!
心配無用じゃ、お前の後はこの父に全て任せい!」
「また返り咲くおつもりなんですか!?・・・・・じゃなくって・・・・お父様にそこまで気を回していただく必要はありません!」
「照れおって」
「違・い・ま・す!!!」
本気で怒りをあらわにし始めるクレアに気づいているのかいないのか、アドレーはちょいと話をつけようとアルベルのところへ向かおうとした。
と、彼の隣にいる別の女性の存在に気づいた。
アドレーもよーく知っている赤毛の女性。
彼と同じく先代クリムゾンブレイドだったネーベル・ゼルファーの娘、ネル・ゼルファーだった。
二人はなにやら話しているようだ。
それを見ながら・・・・アドレーはニヤリと笑った。クレアは嫌な予感がした。
「そういえば、旅のさなかもあやつらは何かと仲が良かったのう・・・・そうか、そういうことじゃったか!」
「・・・・・・・ネ、ネル・・・・・・」
「それならば仕方ないのう・・・・あやつはネルにくれてやるとして、そうしたら・・・・」
「お父様! それは誤解です!」
「そうなのか?」
クレアにしてみたら、冗談ではない話だった。
大切な友人のネルが、よりにもよってあの・・・・・・・腹出しヘソ出し腿出し男とだなんて!
「考えてもみてください。ネルと彼とはこの戦争でお互いに戦って血を流した・・・・・・
それなのに、今更何事もなかったように付き合うなんてできるはずがないでしょう?」
「・・・・・・・ふむ・・・・・それはそうかもしれんが・・・・・」
「ですから、お父様、彼のことはどうぞお忘れになってください。私もネルも、決してそのようにはなりませんから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、わかったぞクレア」
「本当ですか?」少し嬉しそうに呟くクレア。
だが。
「お前、ヤキモチを焼いておるんじゃな?」
違いますっ!!

ダメだ、この親父は。

「確かに、仲よさそうじゃからのう・・・・・考えてみれば、ネルももうそろそろ結婚してもおかしくない年齢じゃし、
ここは一つ、亡きネーベルのためにもネルに幸せになってもらわねばのう」
と、二人の方へ歩き出すアドレーを、クレアが前に躍り出て阻止する。
「ですから! その相手が必ずしも彼である必要はないわけでしょう?
お父様が口を出すと話が恐ろしくややこしくなりますから、ここは控えてくださいませ」
「何を言う、クレア。このワシがとりもってやろうと言うのだぞ、心配はいらん。お前は黙って見ておれ。
・・・ちゃんとお前にも似合いの男を見つけてやるから心配するな」
「だから、そういう意味ではありませんっ!!!」
「がっはっはっはっは・・・・!! 照れるでないぞ!」



「・・・・相変わらずだね・・・・あの方も・・・・」
 そんな親子の様子をまた、ネルも伺っていた。何を話しているのかは聞こえないものの、時折アドレーの高笑いが聞こえてくる。
「さっきからこっちを見ていたようだったけど・・・・・」
ネルが呟くと、うんざりしたようにアルベルが言った。
「なんだか猛烈にイヤな予感がするんだが・・・・・気のせいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
完全に否定しきれないネル。
大概、あの御仁が関わってくるとロクなことにならない。と、ネルはよく父親から聞いていた。
実際、この前までの旅を共にしたが、どうにもトラブルメーカーだった。
「・・・・・ヘンなことにならなきゃいいけど・・・・・」
頭を抱えて、ネルは一歩足を踏み出した。
「どこへいく」
「もう式も終わったみたいだし、こちらもシーハーツ側の代表として色々あるからね。失礼するよ」
「そうか」
そっけない返事。でも・・・・
「それじゃね」
「ふん、また来い」
「ふふふ・・・」
つい笑みを浮かべて、ネルはクレア達の所へと向かった。
それをじっと見送るアルベル。



「あ、ネル」
「見ろ、クレア。あの嬉しそうな表情を。きっとプロポーズされたに違いないわい」
「なんでそうなるんですかっ! お父様は発想が飛躍しすぎなんです!」
また騒ぐ親子のもとへ、やってくるネル。
「・・・・相変わらず仲がいいですね」
呆れたような口調。
それに反応して、親子は揃ってネルを見やった。
「仲がいいとか、そういうんじゃないのよ、ネル! これは深刻な問題なの!」
「ネル、式には呼ぶんじゃぞ」
「は?」
「お父様っ!!!」
再びケンカし始める二人の様子を見やって、仲がいいねぇとネルは薄く笑ってため息をついた。



 しかし・・・・・・ネルはまったく予想していなかった。
この親子によって、この先の運命が妙な方向に変えられてしまうことなど・・・・・・






to be continued...





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