A Dreamy Maiden

 

「・・・・ああ・・・・フェイトさん・・・・・ほぅ・・」
 幾分夢見がちに、うっとりと呟く少女がいた。
おたまなど手に持って、作業もそっちのけで溜息一つ。
「前にここに来てくれたのが、もう一週間も前・・・・・ああ、一体次はいつ私に会いに来てくれるのかしら・・・・・・」
そこは、カルサアの街の片隅にある工房。
「どうしたんですか、マユさん?」
「やーね、溜息なんかついちゃって」
彼女の様子を見かねて、同じクリエイター仲間の女性たちがやってきた。羽根を持った女性と帽子の少女。
彼女・・・・マユはそちらを見て、また溜息をついた。
「ち、ちょっと〜、人の顔見て溜息つくなんて、どういうことよ!」
やや大きめの帽子をかぶった、気の強そうな少女が文句を言った。
「・・・・メリルさん、思いませんか?」
「何を?」
「私達、このままでいいのかって」
「へ?」
「だって・・・・」
マユは周囲を見渡し、彼女達を見渡し、力説し始めた。
「こんな、薄暗い密室でひたすらアイテムの制作ばっかり・・・・
年頃の、青春を謳歌するうら若き乙女が、こんな不健康な毎日を送っていていいっていうんですか!?
いいえ、よくない! 乙女は常に恋をしてキレイでいないといけないの! そうでしょう!!?」
ビシッと二人の女性を指差すマユ。しかし・・・・当の彼女達は顔を見合わせて・・・・・・
「別に・・・・興味ないし」
「私は・・・・羽根の生えた方ならいいんだけど・・・・・」
にべもない答え。マユは再び深い溜息をつく。
「はぁ・・・・・・ダメだわ・・・・ああ、フェイトさん会いに来てくれないかしら〜・・・・・・・」
「あら」帽子の少女・・・メリルが反応した。「アナタ、フェイトさんがいいっていうの?」
「・・・・・・そうだけど」
「ふーん・・・・・・フェイトさんねぇ・・・・・・・そうかぁ・・・・」
「な、何よ・・・」
ニンマリと笑うメリル。
「うん、いいかも。これなら、きっといい評価が貰えるかもね。
ねぇ、スターアニスさん、協力して欲しいんだけど」
「えっ? 私がですか?」
羽根を持った女性・・・スターアニスはいきなり指名されて驚いた様子だ。
「そ」
「で、でも私は細工専門ですし・・」
「だからいいんじゃない。細かい造形とか、私苦手だからね」
「・・・・はぁ」
「私一人じゃアレだし、イザークにも手伝ってもらおうかしら・・・・・よし、ラインはこれでOKね」
「ち、ちょっと・・・・・!」
一人盛り上がるメリルに、マユが声を張り上げた。
「一体何をするつもりなの?」
「ふっふっふっふ・・・・・・完成するまで内緒☆」
スターアニスを引き連れて、メリルはイザークの所へ向かう。
一体何を作るつもりなのか・・・・マユは不安になった。



 それからさらに一週間後。マユもそのことを忘れかけていた、そんな頃。
「出来たわよっ!」
驚いて思い出し振り向くと、徹夜あがりの様相のメリルが何か大きなものを運んで来ていた。
それはマユよりも大きく、布がかけられていた。
「・・・・・・何を・・・・」
「ふっふっふっふ・・・・・・これはもう大傑作よ、評価も100間違いナシ!」
「だから何を・・・・」
「わかったわ、お見せしましょう」
布をバッと引き剥がす。そこにあったのは・・・・・・



等身大のフェイト。


ただし、フェイトなのは顔だけ。




「・・・・・・・・・・・メ、メリル・・・・さん?」
呆気を通り越して脱力感に襲われるマユは、どうにか言葉を振り絞った。
「その名も、フェイトさん2号! ほら、マユさんがフェイトさんがいいっていうから、作ってみたのよ」
「・・・・え、えええ・・・!!? って・・・・・フェイトさんって・・・・・」
さっきも説明したが、フェイトなのは顔だけ。首から下は、メカそのもの。
「フェイトさんの顔、うまくできてますか〜? 私が作ってみたんですけど」
スターアニスだ。確かに、顔の造形は素晴らしい。作り物感は否めないが、流石は細工のクリエイター、いい仕事をしている。
しかしながら・・・・・・
「・・・あの・・・・首から下・・・・・・」
「ああ、服の構造とかよくわからなかったんで・・・・保留です」
「保留って!!」
アレだ。マユは思った。
フェイトさんは、フェイトさんそのものだからいいわけだ。
首から下がメカニックなフェイトさんなんて、不気味なだけじゃないか・・・・・!
「驚くのは早いわよ、マユさん」
いやもう、色々な意味で驚いているマユに、メリルがさらに嬉々として告げた。
「喋るのよ、このフェイトさん2号は!」
「はぁ!?」
ああもうどうにでもして・・・・マユがそんな視線をメリルに送ると、彼女はそれを期待感と勘違いでもしたのか、
「まぁ聞いてちょうだい。機械に喋らせるなんて、私ったらなんてすごいのかしら・・・・!」
フェイトさん2号の体の部品を少々いじるメリル。すると、どこからか音がし始めた。
「・・・・・ガー・・・・・ボキ、フェイオ、まゆサン、ダイムキ・・・・ダイムキ・・・・・・・」
「どう!?」


マユは・・・・どうコメントしようか考える気力すら失せていた。

もう・・・・・どこからつっこんでいいんだろう。

いやもうそんなことより・・・・・・・・私の中のフェイトさん像を壊さないでお願いだから・・・・・・・



「・・・・あ、あの・・・」
 やっと、マユは声を上げることができた。
これだけは聞いておかないと。
「・・・・・・・それ・・・・ギルドに申請するんですか・・・・・・?」
「ん? とーぜん」

マユは、目の前が真っ暗になった。








「そういや、こっちはどうなってるのかな・・・」
 カルサアから遠く離れた遠い世界で。何気にフェイトはテレグラフを開いた。
画面には相変わらずのウェルチ嬢の笑顔が。
「久しぶり」
『こんにちはー、しばらく音沙汰ないからどうなっちゃったかと思いましたよー』
「ごめん、ごめん。・・・・開発状況とかどうなってるのかと思ってさ・・・」
『えーと・・・・・結構たくさん申請されてますよ。なかなか面白いものもありますし』
「ふーん・・・」
『新情報の欄を参照くださいね』
「ああ」
言われるがままに、フェイトは新情報をチェックし始めた。
文字の羅列に興味深げに目を通すフェイトだったが・・・・・・・・・


ぶっ!!

思わず吹いてしまった。
なんだぁ!? このフェイトさん7号ってのは!?
『ね? 面白いでしょ?』
「お、面白いって!!」
思わず、詳細を開く。そこには・・・・・・・





『人気マルチクリエイター、フェイト・ラインゴッド氏の等身大ロボット。改良に改良を重ねた結果、キザいポーズで貴方に愛を囁いてくれます。』









「なんだこりゃああああああっ!!!!」







人気マルチクリエイター、フェイト・ラインゴッド氏の叫びが遠き世界にこだました。




追記。
この後、フェイトさんは13号まで改良され、いつの間にやらクリフアニキ3号やらネルお姉さま4号やらが追加登録されてしまうなんて、今のフェイト達の知るところではなかった。





END





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