Food Fight! -previous story-

 

 それは、彼女が運命の邂逅を果たす、少し前。

 反銀河連邦組織クォークという組織があった。
その名のとおり反銀河連邦を掲げている組織で、主にクラウストロ人で構成されている。
銀河連邦から独立・自立を目指す組織の仲立ちを主な活動としており、メンバーの多くはまだ若者。
そんなクォークを率いるのは、クリフ・フィッター氏。
クォークを設立した人物でもある。
彼のもとには、彼の思想に共感する者たちが徐々にではあるが集っていた。

 この組織に、数年前新たに加わった少女がいた。
メンバーでも珍しい、ヒューマンの少女。名前をマリアといった。
彼女が、その特異性によりクォークのリーダーを任されるのは、もう少し先のことになる。


「はぁ・・・・・・いつみてもキレイだ・・・マリア・・・」
 クォークの宇宙船「ディプロ」の内部。通路のかげから、歩いているマリアを覗き見る一人の青年。
名はリーベル。
いつからか、マリアにすっかり心奪われてしまっている若者であった。
当のマリアはちっともそんなことに気づいていないのが悲しいところだが。
「また見てるのか」
後ろからいきなり声がかかり、バッと振り返るリーベル。
そこには彼によく似た風貌の、眼鏡をかけた青年。彼・・スティングはリーベルの双子の兄だ。
二人そろって「ラゼリアの双星」を自称しているが・・・・あくまでも自称。
「よく飽きないな」
「い、いいだろ別に・・・見るのは勝手だろ」
「それはまぁそうだけど。まるでストーカーだな」
「うるさい!」
あわてて彼女の視察に戻るリーベル。マリアは、とある部屋に入っていった。
「・・・・・珍しいな」とスティング。
「あそこ・・・・厨房だよな・・・・」
二人そろって首をかしげる。彼女が厨房に出入りする姿を、スティングはもちろんリーベルも見たことがない。
クリフが彼女を厨房に入れさせないようにしている、という話を聞いたことがある。
それが何故なのかは、二人は知らない。
しかし、この後それを思い知らされるハメになるのである・・・・・・


 定期的に会議を行う以外、あまり使われない会議室。ここが兼食堂になることもしばしば。
この日もメンバーの約半分が昼食のためにここに集まってきていた。
「お? メシはまだかよ」
リーダーが会議室に顔を出した。その後ろには彼のパートナーでもある、ディプロのオペレーター、ミラージュの姿も。
「今日はちょっと遅いんですよ」
「へぇ。珍しいな」
と、その時ドアがシュッと開き、マリアが姿を見せた。
と同時に、昼食であろう匂いが漂ってきた。・・・・しかし、どこか不思議な匂い・・・・
「みんな、お待たせ! 遅れちゃってごめんね」
彼女はそう言ってなんだか異様に大きいナベを持って入ってきた。
ざわめく一同。そして、呆然とするクリフ。
「・・・・・マリア。お前、まさか」
「たまにはいいかな、と思って。腕を振るってみたの」
と、ガッツポーズをとってみせるマリア。
「マリアの手料理だって!!?」即座に反応したのはリーベル。
その一方で、見る間に青ざめるクリフ。
「・・・・やって・・・くれたな・・・・・・」
「いつの間にいなくなってたんでしょうか」冷静に呟くミラージュ。
「さぁ、召し上がれ!」
ドンとナベを中央に置き、フタをとってみせる。不思議な匂いがあたりに充満した。
皆が勇気を出してナベを覗き込むと・・・・青紫色の液体がグツグツ煮立っていた・・・・・・・
「・・・・こ・・・これは・・・・・・」
呆然と呟く、小柄な少女。彼女・・マリエッタは思わずクリフ達を見やった。
「・・・・・・マリア」諭すように呟くクリフ。「お前、いつの間にブリッジ抜け出したんだ? 離れるなっつったろ?」
「・・・・・ごめんなさい、それは謝るわ・・・・・でも、私だって役に立てることがあればって・・・・・・」
シュンとするマリア。そして頭を抱えるクリフ。
「いじらしいなぁ・・・・」とリーベル。
「・・・恋は盲目か・・・・」彼の隣で呟くスティング。
「せっかく作ったんだし、みんなに食べてもらいたいの。いいでしょ?」
(うっ・・・・!!)
うるんだ瞳で小首をかしげて訴えるその姿に、誰も意見も言えず・・・・・
 結局皆に行き渡る、奇怪な料理(?)。だが、当然ながら手をつける強者はおらず。
さしものリーベルもさすがにためらわれたようだった。
「・・・・(どうする・・・・・だから、あいつを厨房に入れさせねぇようにしてたのに・・・・)」
料理(?)を凝視しながら思案にくれるクリフ。
マリアの料理の腕は恐ろしいまでに殺人的・・・・・この事実を知っているのはクリフにミラージュ、メンバーの古株ランカーくらいのものだろう。
そのミラージュはクリフの横でやはり料理をジッと見つめていた。
が、いきなりクリフを見やった。
「リーダー。そういえば私、システムの点検作業が途中なんです。せっかくのお料理ですけど、ごめんなさいねマリア・・・・代わりにリーダーに頂いてもらいますから」
「はぁっ!!!? おい、ミラージュ・・・!!」
クリフがツッコむ間もなくミラージュはサッと立ち上がると、一礼して会議室から退室した。
呆然とする一同。
(逃げた・・・)
(逃げたわね・・・・)
(ミラージュさん、逃げたな・・・)
(うまい・・・・)
しかし、ミラージュの分までも頂いてしまったクリフはたまったものではない。
マリアがこちらを見ている!!
再び、料理(?)を凝視するクリフ。
(・・・・・笑えねぇ冗談だ・・・・・)
 中々手をつけないクリフに、マリアは悲しそうな表情を見せた。
それに、触発された男がいた。
彼女に恋する男、リーベルであった。
「マリア! キミの愛情こもった手料理・・・・・頂かせてもらうよ」
「リーベル」嬉しそうに笑うマリア。
彼は心の中でガッツポーズした。好感触! しかし。
「リーベル! 早まるな!!」
「そうだぜ、死んだら元も子もないだろーが!」
「落ち着いて考えて! ね?」
仲間達が次々と止めに入ってくる始末。
しかし、彼の決意は固い。
「大丈夫さ。こう見えて、ビックリするくらいおいしいかもしれないだろ?」
いや、それはない・・・・皆が心の中でツッコんだ。
フゥ、とスティングが溜息をつく。
「・・・・・ラゼリアの双星、片星落つる・・・・か」
「縁起でもないこと言うな!!」
「ねぇ、リーベル」マリエッタが心配そうに見ていた。「気持ちは・・わかるけど、あなたがいなくなったら・・・・・私・・・・・」
「・・・・・・なんで、みんなそんなことばっかり言うんだよ」
そりゃ・・・なぁ。あまりにも毒々しいその料理(?)を見れば、止めたくなる気持ちはもっともである。
「誰がなんといおうと、俺は食べる! 止めるなよ!(そして、マリアのハートをゲットだぜ!)」
動機はやや不純だが、その固い意志を前にしてこれ以上口を挟む者はいなかった。
 彼は料理(?)を見つめた。青紫の、ドロドロとした液体みたいなモノ。
もはや、何が入っているのか皆目見当もつかないほど。
リーベルは、その液体じみたものをスプーンですくってみた。やはりドロドロしている。
彼の一挙一動に、その場にいた全員が注目していた。
(これを食せば、マリアをゲット・・・・・マリアをゲット・・・・)
やや勘違いしているようではあるが、それでも今、彼は勇者だった。
最大限の勇気とマリアへの熱い想いを振り絞って、彼はその液体を口に入れた!
おおー、と歓声が起こった。

 しばらく、リーベルは動かなかった。
皆が、彼に視線を集める。やがて、青い顔してフラフラとマリアの近くにいくと、彼女を見下ろして・・・

「ぐっじょぶ!!」

親指を立ててニカッと笑い、そしてそのまま真後ろに卒倒した。
「倒れたぞーーーーー!!」
「生きてるか!? 返事しろ!!」
「・・・お前こそ、本物の勇者だ・・・!!」
大騒ぎとなった。その一方で、当のマリアは・・・
「卒倒するほどおいしかったのね・・・良かった♪」
などと派手な勘違いをしている始末。クリフは再度頭を抱えた。
そしてリーベルがこだわっていた、料理(?)を食べてマリアのハートをつかむ作戦は、あんまり功を奏していないようだった・・・・・

 なお、愛の力なのかリーベルは一命はとりとめたという。


 クリフ・フィッター氏は語る。
後にも先にも、マリア嬢の料理を自分からすすんで食した勇者は、彼だけだった・・・と。





END





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