Food Fight! -A Dynamic Gentleman-

 

 その日彼らはシランドへと赴いていた。
パーティ1の権力者、マリア・トレイターのたっての希望で。
他のメンバーは「急がないといけないからさぁ」とか「こうしてる間に世界が消えちまったらどうすんだよ」とか、死ぬ気で止めたのだがマリアは意に介さず。
その結果、彼らはシランドにいるということだ。

「さぁ、ネルは一体どこにいるのかしらね」
鼻歌まじりにシランドの町並みを闊歩するマリア女王の後ろで、フェイトとクリフはひっそりと相談。
「・・・マリア・・・本気でネルさんにリベンジするつもりなのかな・・・」
「だろうよ。ありゃ、獲物に狙い定めたハンターの目だ」
「・・・ネルさん、シランドから遠く離れたところに任務についてたらいいのに・・・・」
「・・・・・・・無駄な期待はすんじゃねぇよ」

そう・・・マリアはいつか受けた雪辱を晴らすべく、ネルに料理勝負を挑みにやってきたのだ。
とはいえ、マリア以外の面々は誰一人としてマリアがネルに勝てるとは思っていなかったが。

その当のマリアは一人城に向かって突き進んでいった。
「・・・ねぇ、フェイト・・・」
フェイトのさらに後ろで、ソフィアが小さく呟く。
「・・・私、逃げてもいい?」
「・・・・・・・・・・・・・ああ、その方がお前のためだと思う・・・・・」
「オイラもちょっと・・・・・・」ロジャーも便乗する。
フェイトも断りはしなかった。彼らもマリアの料理の恐ろしさを身を以て知っている仲間だから。
「俺はクレアにネマワシしてくらぁ」
クリフがそれだけ告げて姿を消す。
クレアを押さえておけば、この前のような料理勝負は多分行われないだろう(むしろこの前はクレア達シーハーツの面々が面白がって盛り上げていたし)
・・・とはいえ、彼女達も思い知っただろうからもう悪乗りはしないだろう。
「・・・・・・気は進まんが、俺はあの赤毛女に注意でもしてきてやる」
最後方をブラブラとついてきていたアルベルでさえ、こんな申し出。
頼むよ、とフェイトは快く送り出した。
一人きりになって、フェイトははたと気づく。

・・・・もしかして僕がマリア担当・・・・・!?




 フェイトはシランド城に入ってマリアの居場所を探した。
だが、厨房にもネルの部屋にもどこにもいない。
不思議に思ったフェイトだったが、程なくして聞きなれない大音量が響いてきた。

「そうかそうか、あのフェイト殿と共に戦っておられるのか!」

ん? 僕の名前?
フェイトは声のした方へ歩いて向かった。
そこは大聖堂だった。
上階から大聖堂を見下ろしてみると、見慣れた青い髪の後姿と、見慣れない大男の姿。
どうやら、さっきの大音量はあの男らしい。
いやに頑強な体格のオヤジだ。
様子をうかがうべく、フェイトは身を潜めて耳をそばだてた。

「・・・ら、そうなんですか。なら、結構お得意なのかしら」
「がっはっはっは! 任せい! そうそうワシの右に出るものはおらんわ!」
「頼もしいですわ・・・・なら、ちょっとお願いがあるんですけど、よろしいかしら」
「おお、何でも構わんぞ! 他ならぬ、英雄殿のお仲間の頼みじゃからなぁ、がっはっはっは・・・・!!」

いちいち笑わないと喋れないのかあのオヤジは・・・・・フェイトは聞き耳を続行する。
そして、驚愕した。

「私の料理の味見・・・・していただきたいのだけれど・・・・」
「ほう、構わんぞ」


!!!


ヤバイ!

咄嗟にフェイトは身を翻して階下へ向かう。
それに気づいて、マリアもオヤジも顔をこちらに向ける。
「あら、フェイト」にこやかにマリアが笑う。
「フェイト?」オヤジが反応した。「・・・お主がフェイト殿か?」
「え、は、はい・・」
いきなり顔面をつきつけられ、フェイトは内心ビビりながらも答えた。
オヤジは答えを聞いてニンマリと笑った。
「そうか! お主がフェイト殿か!
いやなに、ワシも挨拶をせねばと思っておったんじゃが、まさかフェイト殿からワシに会いに来てもらえるとは・・・・」
「・・あ、いや、別にアナタに会いに来たわけじゃあ・・・・・」
ていうかアンタ誰だ?
「そうじゃ、自己紹介がまだじゃったな」
オヤジは改めて向き直った。
「ワシの名はアドレー・ラーズバード。シーハーツに仕えておる施術士のはしくれじゃ」
「・・・あ、フェイト・ラインゴッドです」
「お主の武勲は聞いておる。シーハーツのために尽力してくれたそうじゃな・・・・・ワシからも礼を言わせてもらう」
「あ、そんな・・・僕は・・・」
「それでね、フェイト」
マリアが話しに割り込んできた。
「アドレーさん・・・・フェイトの手伝いがしたいって言ってるのよ・・・」
「・・・・・・え?」
「だから・・・ちょっとお願いを聞いてもらおうと思って・・・・」
「ち、ちょっと待ってマリア」
僕の手伝い? いや、それはいいんだ。
僕の手伝いから、どうしてマリアのお願いを聞く展開になるんだ? しかも料理の味見!?
「気にすることはないぞ、フェイト殿。ワシは一向に構わん」
「だから、勝負の前に腕試し・・・・ね。いいでしょ、フェイト?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

フェイトは・・・・どう返事したらいいのか・・・・困った。
了承するべきか? 断るべきか?
・・・・いや、もう答えは決まっていたのだろう。

「・・・・・・ああ・・・わかった・・・・・」

この二人の説得には耐え切れない。
そう思ったフェイトは心にも無く、了承してしまった。




 そして。
喜び勇むマリアを残し、フェイトは城内を歩いていた。
他の仲間を探し、これからの未来を相談するために。
どこともなくフラフラうろついていると、どこからか話し声がするのに気づいた。
向こうの廊下の扉の辺り・・・あそこは確か会議室・・・・・
中をそっと覗いてみると、中で会話している男女の姿。
「ネルさん・・・!!」
思わず彼は中に突入していた。
「おや、フェイト。久しぶりだね」
薄く笑うネルに、フェイトは思いっきり詰め寄った。
「・・・・・・・・・・・・・大変なことになりました」
「・・・・・!? どうしたんだい、フェイト・・・?」
「・・・何やらかしやがったんだ、あの女・・・?」
フェイトの様子に思わずアルベルも呟く。
二人に、ことの成り行きを説明するフェイト。
「・・・・アドレー様に・・・・」
「そうなんだ、よりにもよって、事情を知らない人に・・・・僕はどうしたらいいのか・・・・・って、ところでネルさん」
「なんだい」
「・・・・『様』・・・って、あのひとそんなに偉いひとなんですか?」
「ああ、アドレー様は先代のクリムゾンブレイドさ。それでもって、クレアの父親」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クレアって・・・・・あのクレアさん?」
「他に誰がいるんだい」
フェイトは思った。
あの、筋肉ムキムキな半裸マッチョオヤジの娘が、あの可憐で清楚で美人なクレアさん・・・・・・!?
「・・・・・・・ネルさん、僕をダマそうってんですか?」
「なんでそんなことしなきゃなんないのさ。・・・・・・ま、信じられないのも無理ないけど」
ため息をついて、ネルはフェイトを見やった。
「フェイト、アドレー様ならそんなに心配することもないと思うよ」
「え! そ、そりゃ、何食べても死にそうになかったですけど! でも!」
「アンタも言うね・・・・・・でも、確かにそんな感じだ。無駄に頑丈だから、ちょっとやそっとじゃビクともしないよあの方は」
「マリアの料理が『ちょっとやそっと』だとでも言うんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ネルは目をそらした。わざとらしく。
「な、なんなら・・・・クレアにも聞いてみなよ・・・・」
ごまかし気味に呟くネルに、フェイトはそうします、と一礼して会議室から出た。
・・・・と、一歩戻って。
「アルベル、頑張れよ」
「はっ?」
返事を待たずにフェイトは駆け出した。
こんな余計な一言があるからフェイトの身にいらない苦労が降りかかってくるのだが。



 クレアは1階の1室にいた。クリフやタイネーブ・ファリンも一緒に。
「よぉ、フェイト」
「・・・クリフ・・・」
「・・・? どうした?」
「とにかく聞いて欲しいんだ。・・・・・クレアさんも」
フェイトは一連の事情を説明した。
段々とクリフに冷や汗が浮かんでくるのが見て取れた。
クレアから笑みが消えていくのが見て取れた。
話しながらフェイトも「こりゃヤバイ」と感じてきた。
「・・・・おい、クレア・・・・・・お前さんの親父さん・・・・ヤバイんじゃねぇのか」
クレアはすぐには返事しなかった。
やがて、ニッコリと笑ってフェイトとクリフに告げた。
「構わないんじゃないですか?」
「・・・・・・・え?」
「あの父のことですから、何したって死にませんよ」
「い、いや、あのー・・・・・・クレアさん?」
「例え何かあったにしても・・・・・それで少しは懲りてくれると助かるんですけど」




!!!?





 フェイトとクリフは部屋を出た。
しばらく無言のまま、二人は歩き続けていたが。
「・・・・・・どうする、クリフ・・・・」
「・・・・・・・・なるように・・・・なれ、か?」
「だな・・・・・・・」
ヘタに首を突っ込んで、いらぬ火傷を負うこともない。
「・・・・いや、待てよクリフ」
「んあ?」
「どっちにしたってヤバくないか・・・・!?
もしもアドレーさんが倒れでもしたら当然ヤバいし・・・・・何もなかったとしたら・・・・・・・・
マリアが不必要に自信つけてしまうよ・・・・・・!」
「!!!」
「どっちに転んでもヤバくないか・・・・?」
「ヤバイ。思いっきりヤバイぞ・・・・!」
「止めないと!!」
「おう!」
一致団結。

かくて、マリア女王を止めるべく奮闘する男二人の姿がシランドで見受けられたという。
そしてその甲斐あって、最悪の事態は免れたらしい。

・・・・が・・・・・


「フェイト殿の力になろうぞ!! 老いはしたが、まだまだ若いモンには負けんわい! さぁ参ろうぞ!!」



アドレー・ラーズバードが旅に無理やりくっついてきたため、仲間たちは眠れぬ夜が続いたとか続かなかったとか・・・・・・





END





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