Food Fight! -Moonlit Serenade-

 

 フェイト達は、久しぶりにムーンベースに来ていた。
ここには、エクスキューショナー襲来のためいまだに多くの人が動くこともできずに避難している。
『彼女たち』も、その中に含まれる。

「あっ! フェイトちゃん! 会いにきてくれたんだぁ!」

相変わらずロビーでヒマそうにウロウロしていた、褐色の肌の少女・・・・スフレ・ロセッティが早速こちらにやってきた。
微笑みかえす一行。・・もっとも一人だけは「何だこのガキは」とか呟いていたのだが。
「ひさしぶりだね、スフレ。こっちの様子はどうだい?」
「うん。あれから目立った事件もないし、も〜ヒマでヒマで・・・・・
フェイトちゃんたちこそどう? 勝てそう?」
「・・うんまぁ・・・・どうにかメドは立ったって感じかな・・・」
「すっごーい! さすがはフェイトちゃんだね!」
「そうかな・・・・」
「ねぇスフレ」
話に割り込んできたのは、マリア・トレイター。
「なぁに、マリアちゃん」
「ちょっと、付き合ってほしいことがあるんだけど・・・・・いいかしら」
『!!』
そのセリフに、マリアとスフレ以外の全員が反応した。二人は気づいていないが。
もちろん気づいていないからスフレも軽く、
「いいよ」
などと言ってしまったために、さらに全員が恐れおののいた。
いま、マリアが非常に意地になっている出来事があり、スフレに声をかけたのもその関連だと容易に推測できる。
その結果、スフレに待っている未来はきっと・・・・いや、絶対彼女にとって有益ではない未来に違いがない。
ゆえに。
「マ、マリアさん! せっかくここに来たんだし、ちょっと買い物しませんか!?」
「そ、そうだな、それがいいぜマリア!」
「スフレ、あの、また今度踊り見せてよ」
「そ、それいいじゃんよ・・・・!!」
途端に取り繕い始める一行。
「ちょっと・・・何なのよアナタたち・・・・・」
「踊り? いいけど、マリアちゃんの用事はいいの?」
「いいんだよ、さぁスフレ・・・・」
「ちょっと!!」

  キュィィィィン・・・・!

金属音が遠くではじけ、一行は固まった。
マリアはその手に銃を構えていた。
「その態度、気に入らないわね・・・・・・私が一体何をしたっていうのよ」
「・・・いや・・・それは・・・・・・・・」
「だったら。邪魔しないで頂戴」
動けない一同を尻目に、颯爽とマリアはスフレのところへ向かった。
「マ・・・マリアちゃん・・・?」
「何でもないわよ、気にしないで。さ、避難所の厨房はどこ?」



やっぱりそこかよ!!!



皆が思ったが、誰も言い出せなかった。




「マリアちゃんがね〜、手料理ご馳走してくれるんだって〜!」
フェイト達と一緒に避難所へ戻ってきたスフレは、一座の面々を見つけるとそう告げた。
無論、何も知らない彼らは。
「へぇ、それは楽しみだね」
「ゴンゾーラ、何でも、食う」
「わざわざこんなとこまで来て、すまんのう」
そんな様子を見て、フェイト達はさらに気を重くする。
「あのー・・・・・・こう言ってはなんですけど、あんまり期待しない方が・・・・・」
「そうそう。裏切られるぜ」
「そうなのかい」別にたいした風でもない様子で呟くパンナコッタ。
「ほっほっほ、スフレとどっちが上か、楽しみじゃぞい」とタルトレット。
『え?』
思わずハモるフェイト達。一方スフレは「もう〜、どっちでもいいじゃん」とか呟いていた。
「いや、それがですね〜」向こうにいたバジルがやってくる。「ウチのお嬢もこれまたなかなかの腕前でしてねぇ・・・いい勝負かもしれないでヤンスよ」
「・・・・いや・・・・・いい勝負っていうか・・・・・・」言葉を失うフェイト。
「悪ィが・・・・アンタらの考えているレベルの話じゃねぇと思うんだ・・・・・」フォローするクリフ。
しかし、それでも一座の面々は動じない。
「大丈夫さ、ちょっとやそっとのモンじゃへこたれないよ、ウチらは」
いや、ちょっとやそっとどころじゃないんですが・・・・・・
「スフレほどじゃあないだろ。ねぇカルツォーネ」
パンナコッタが振り返ると、そこにいたカルツォーネがおおげさな身振りで語り始めた。
「ええ。その深遠の闇に通ずるが如し未知なる味覚の世界は、例え如何な勇者といえども踏み込むことも叶わぬ反面世界・・・・・その強固なる意思の前には正義の剣を携えし勇者もひれ伏すことになるやもしれません・・・・・・ああ、最早我らに残された道はひとつしかないのでありましょうか・・・・・」
「・・・・・ってな具合さ」
わからんわ!!
「出来たわよ〜」



!!!



マリアの声!!
「お待たせ〜」
両手で持った土鍋を携えて、ニコニコしながらやってくるマリア。
匂いは普通っぽいが・・・・・
(・・どうする、クリフ・・・・・流石にロセッティ一座の人を殺すワケには・・・・)
(ああ・・・どうにか誤魔化して食わせないようにしねぇとな・・・・殺人犯にゃなりたくねぇし)
運び込まれた鍋は、それなりにおいしそうにグツグツ煮立っていた。

・・・・汁は鮮やかな緑だったが。

(・・・・一座の人、これを見て何て思うだろう・・・・)
フェイトはチラリと近くにいたパンナコッタの顔色を伺った。
フェイト達が驚愕するのは、ここからだった。


「へぇ、思ったよりマトモじゃないか」

(・・・・・・え?)

「確かにのう」
「もっとすごいのを想像してたでヤンスよ」
「何でも、食う」
「さしもの美しき挑戦者も、我らが姫にはかくも及ばないものか・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
一座の面々は誰一人臆する事なく、普通に取り皿に取り分けているではないか。
これには、フェイト達も面食らった。
唯一平然としているのは、当然ながらマリア。
「みんな、結構ヒドイよね〜。それって、遠まわしにアタシのことけなしてる?」
スフレがむくれていた。
「しょうがないじゃないか」
「お嬢の料理はすごいでヤンスからねぇ・・・・」
「・・・・・そ、そんなにすごいんですか・・・・・?」思わず尋ねるフェイト。

「すごいよ」「すごいぞい」「すごい」「すごいですよ」「すごいでヤンス」

見事にハモった。
「ひっど〜い!! みんなで言うことないじゃないのよ〜!!」
「だって、お嬢、事実でヤンスから・・・・・」
「何よ〜! ちょっと待ってなさいよ、アタシも何か作ってくるから!!」
「え、ちょっと待ちな、スフ・・・・・・・!!」
止める間もなく、スフレは一人厨房へと走っていった。
「・・・・行ってしまったぞい」
「はぁ・・・・しょうがないね・・・・アンタ達、食べてやってくれるかい」
『ええっ!!?』
思わぬところで矛先がこちらにきて、再度ハモってしまうフェイト達。
「・・・・大丈夫、死にはしないよ・・・・・・運が良ければ」
『えええっ!!!?』
「コレ(マリアの料理)を食べれるんなら、大丈夫でヤンスよ」
呆然とするフェイト達。
(・・・クリフ・・・・)
(・・何だ・・・・?)
(僕達・・・・生きてムーンベースから出られるんだろうか・・・・・)
(運が良けりゃな・・・・・・)

フェイトは思った。
以前ムーンベースを訪れたとき、スフレを仲間にしないで良かった、と。




そして、世界は広いんだ、と。







END





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