Food Fight! -Revenger-

 

 彼は今、絶体絶命の窮地に立たされていた。



無限に広がる星の大海原。人間は宇宙船に乗ってその未知なる大海原を隅々まで探索している、そんな時代。
その海原にポツンと一隻、宇宙を漂う航宙艦があった。
小さくはないが、大きくもないレベルの航宙艦。
その名前をディプロと言った。




 青年は目の前に広がっている外宇宙の世界に我が目を疑っていた。
決して、おかしくもなんともない光景には違いないのであるが、その光景が意味するところ、そしてそれによって自分が今どういう境遇にあるかということ、そしてそれがもたらす遠くない未来の顛末。
彼の額にうっすらと汗がつたい落ちる。

「どうしたの、リーベル! ボーッと突っ立ってないで、手伝って!」
「・・・・・あ、はい・・・・リーダー・・・・・」

目の前で、クォークのリーダーである青髪の少女がナベやらフライパンやら片手にあちこち動き回っていた。
その光景は彼にとってはある意味、外宇宙に等しい未知なる光景であった。


聞けば、彼女は実験体・・・・もとい味見役を探していたらしく、フェイト→ロジャー→クリフ→ミラージュ→ランカー→スティングとたらい回しされたあげくに彼の所に来たらしい。
彼が彼女に好意を持っている・・・・彼女自身のみが知らない周知の事実。そんな彼に、彼女のたっての願いを断れるはずもなく・・・・・・・・

こうして、厨房で仲良くお料理・・・・と相成ったわけなのだ。
本来ならば、彼にとってはまたとない絶好のチャンスなのだ。好きな娘と二人で、料理なんかやったりして。
問題は・・・・・・その料理が果たして『料理』の枠に収まるものなのだろうか・・・・ということ。
リーベルは、マリアに話を持ちかけられた瞬間、





今度こそ殺される!?



・・・と、図らずも思ってしまったという。

というのも、以前、やはりマリアの料理を食べた際に瀕死におちいり、お花畑の向こうで死んだおばあちゃんが手を振っていたとかいなかったとか・・・・・・・
そんな過去があるため・・・・・いくら好きな娘の手料理とはいっても、やはり食べるのはためらわれるのだが。


「ねぇ、リーベル・・・・・」
「はい、何ですかリーダー!」
「・・・・・私の作る料理の味見をして欲しいんだけど・・・・・」
「(! 今度こそ殺される!!?)あ、も、勿論です! 喜んで!!」





そして今に至る。
どうしよう・・・・逃げ出したい・・・・リーベルは心底そう感じているのであるが・・・・・・
でも・・・・目の前で楽しそうに料理しているマリアの姿を見ると、いじらしくて、逃げるなんてできなくて。
でも命は惜しいわけで。

「リ・・リーダー・・・・・なんで、いきなり料理なんて・・・・・」
恐る恐るたずねてみるリーベル。マリアは振り向いて、真剣な顔になった。
「女の意地がかかっているの。絶対に負けられないのよ」
「・・・・は、はぁ?」
「ちょっと、料理勝負しようと思ってね・・・・・」
「料理勝負・・・・・・・・」
想像してみた。そして、思わず
「リーダーの料理なら、一撃必殺ですよ!!」
と言いそうになってしまった・・・・・。
「・・が、頑張ってください・・・」
「だから、リーベルにも手伝って欲しいのよ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・は・・・・・・はい・・・・」
一体何を食べさせられるのだろうか・・・・・・?
リーベルは怖いもの見たさに、彼女の料理風景を近くから覗いてみることにした。
大ナベをかき回している。ナベで煮込むのが好きなんだって、確かクリフさんが言ってたっけ。
「リーダー、・・・・何を煮込んでいるんですか?」
「ふふ、何だと思う?」
しばらく沈黙したあと、リーベルは恐る恐るナベを覗いてみた・・・・・・
とりあえず、目に飛び込んできたのは、黒。
「・・・・・・・・リーダー・・・・・・俺には何を煮ているのかさっぱり・・・・・・」
「あら、わからない? ここに大根でしょ、カブでしょ、ジャガイモでしょ・・・・・・」
「ど、どれもこれも真っ黒なんで、区別が・・・・・」
「まぁまぁ、食べてしまえば一緒よ」
い、いや・・・・そんな大味な話で済む問題ではないような気が・・・・・・そもそも、この黒は一体・・・・・
「この黒いのは、何なんですか・・・?」
「フェイトよ」
「・・・は、はぁ!?」
「何でもないわ。色々あるのよ。色々とね」
なんだか・・・・・なんだか、リーダーが違う世界の人に見えるよ・・・・・・・
「ねぇリーベル」
「は、はいっ!?」
「ちょっと味見してみてよ」
来た! リーベルは覚悟した。マリアに手渡されたのは、小皿に取ったナベの煮汁。真っ黒。
結局この黒は何の黒なのかわからずじまいなのだが、聞いても多分マトモに答えてはくれないだろう・・・・と観念。
死んだつもりで、リーベルは小皿の煮汁を飲み干した!!

・・・・・・・・・・・・・

「・・・・リーダー・・・」
「どう?」
「・・・・・・・・まずくはないけど、うまくもないんですが・・・・というか、味が無いです」
「あら。ちょっと失敗したかしら」
あわててナベをかき回すマリアを見つめながらリーベルは、「命拾いした・・・」と心の底から安堵した。
しかし本当に、何を入れた黒なんだろうか・・・・・・




 しばらく後。
「できたわっ!!」
とのマリア嬢のお言葉に、リーベルはもうあきらめた表情で答えた。
「リーダー、時間かかりすぎなんじゃないですか・・・・? もう3時間は経ってますよ・・・・・」
「えっ、そんなに!? やだ・・・・・」
いや、やだじゃなくて・・・・・
大体、3時間も煮込むナベなんて、どういうナベ料理なんだ・・・・?
しかしながら、1回味見をして無事生き延びることができただけに、そうひどいモノは出来ないだろうと彼も若干安心していた。
安心していたのだが。

「・・・・リーダー・・・・・・・これ、さっきのナベじゃ・・・?」
「ええ、そうよ。同じやつ。じっくり煮込んだからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

あの・・・・・今度は煮汁が目にも鮮やかな水色になってるんですケド・・・・・・・・

「・・・・あの、黒は・・・?」
「え?」
「いや、さっきまで黒い汁だったと・・・・・・・」
「ああ、大丈夫よ、それもフェイトだから」
「!!??」
さっぱりワケのわからない返事をされた。
もう、何も考えずに食べるしかないのだろうか。
でも、でも、どうしても気になる。
「リーダー・・・この水色は何をベースにしたんですか・・・?」
「え? ・・・やだ、そんな細かいこと言いっこナシよ」
いや! 細かくないし!
「あの、カキ氷とかに使う、青いシロップとか・・・?」試しに聞いてみるリーベル。
その返事は。
「あ、そう、それにしとくわ」



それにしとくってどういう意味ですか!!?



「リーダー! ってことは違うんでしょ! 本当のこと教えてくださいよ!」
「えーっと・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ベースっていうか、ちょっと隠し味を入れたらこんな色になっちゃったのよね・・・・・・」
「隠し味!?」
いや、ちっとも隠れてないって。
しかし、さっきよりはまだ的を射た返答に、ちょっとだけ一息つくリーベル。
問題は、その隠し味は一体何なのか・・・・・・
「あら、隠し味は隠し味よ・・・・喋ったらマネされちゃうかも」
「しませんから! 教えてくださいよリーダー・・・・」
「・・・・・・・そうね・・・・」
「誰にも言いませんから! リーダー!」
リーベルの真剣(必死)な眼差しに、マリアも揺らいできたらしく。
「・・・・誰にも言っちゃダメよ・・・・・・あのね・・・・」
「はい」
「ちょっとだけ・・・・・アルティネイションをね・・・・・」






リーベルは目の前が真っ暗になった。



※アルティネイション・・・・マリアが宿している紋章遺伝子の産物。物質を変化させる能力。彼女もまだ使いこなせていない。



とりあえず・・・・・ツッコミたいことはいっぱいあったのだが。














そんな隠し味、誰にもマネできないっつーの!










「じゃ、食べてみてくれる、リーベル」
「・・・・・・・・え」
ニッコリ笑うマリアを見つめ、水色のナベを見つめ、自分の手を見つめ、彼は途方に暮れた。
今度こそ・・・・・ダメかもしれない・・・・・と。



その日、リーベルはお花畑の向こうに死んだおばあちゃんと、さらにおじいちゃんまでも見たとか見なかったとか・・・・・・・





END





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