Colosseum

 

 彼らは、今ジェミティという都市にいた。
ここは巨大なテーマパークのような都市で、色んなゲームを楽しめる施設が揃っている。
一番人気なのは、言うまでもなくエターナルスフィアであるが、そのキャラを使った「闘技場」も人気アトラクションの一つであった。
もっとも、「彼ら」にとってはゲームなんかではない、真剣勝負な場所なのだ。


「・・・というわけで」
 青い長髪の女性が一息ついて言った。
「しばらくはこのジェミティで色々準備を整えましょう。クリエイションするもよし、戦うもよし、ゲームもよし。でも、あんまりハメは外さないように」
 彼らは、彼らの戦いのためにこの都市に来ていた。決して遊びではなく。
「さて、どうしようかな・・・・」
とりあえず自由行動となって、フェイトはこれからどうしようかと思案にくれた。
ここは遊びの都市であるが、遊んでばかりはいられない。他のみんなも、それぞれに自己の向上に努めるに違いないだろう。
なら、自分は何をすべきか。
戦闘面のレベルアップ。自然と、足はアトラクションの一つ・・・闘技場へと向っていた。

 闘技場のエリアには、かなりの客がいた。
やはり、こういった戦いを観戦するのは、どんな人間でも楽しいものなのだろう。
どんな感じなのか見ようとしたところ、既に仲間もここに来ていたようだった。
どこにいても目立つ(この街だと特に)、大柄な筋肉男と一種異様ないでたちの剣士。
クリフ・フィッターとアルベル・ノックス。
「よう、フェイト。お前も来たのか」クリフがこちらに気づいた。
「ああ、どんなものかと思って」
「まぁまずまずだな。ここでちぃっと鍛えりゃ、結構強くなれるかもしれないぜ」
「ふぅん・・・・・なら、やってみるか?」
「勿論! やりたくてウズウズしてたんだ」
拳を鳴らして意気込むクリフ。こういう(何も考えずに暴れ回れる)やつが好きな性格だから。
本人には言わなかったが。
「もう参加してるかと思ったけどな」
「それが、三人一組ってルールがあるんだ。だから、お前が来たから丁度三人。やろうぜ!」
「ふぅん。そっちはいいのか?」
フェイトは少し向こうで立ったままのアルベルを見やる。
「アイツは俺より先にここに来てたぜ。殺る気満々だ、問題ねぇよ」
「・・・はははは・・・・・・・」
苦笑する。
 フェイト達は参加受付に向った。受付のお姉さんは笑顔で応対してくれる。
「エントリーは三人一組となっております。チームワークが勝利の秘訣です、頑張ってくださいね!」
フェイトとクリフはチラリと後ろを見やった。
「・・・・チームワーク・・・・・・ねぇ」
「アイツにゃ無さそうだよな」
「・・・何を見ている」
二人は首を横に振った。
「フェイトーーー!!」
と、さらに後方に他の仲間の姿。女性陣もここに来たようだ。
「やぁ、ソフィア、マリア、ネルさん」
「フェイト達も参加するの?」
「まぁね」
「そうなんだ。頑張ってね」
「ああ、頑張るよ」
「応援してるわ」とマリア。
「気をつけなよ」とネル。
彼女はこの後小声で「私も出ようか・・」とか呟いていたらしいが。


受付からシミュレーターに向うフェイト達。クリフが思い出したように、
「そーいや、気をつけろよ二人とも。普通のヤツはこん中からキャラクターを操作するわけだから、どんなにケガしても本人は無傷で済むが、俺たちはそうはいかねぇだろうからな」
「そうか・・・」とフェイト。「他の人みたいに無茶はできないな」
「・・・・・・・? ケガすんのは当たり前だろうが」不思議そうな表情のアルベル。
やはりというか、いまいち「この世界」の仕組みを理解しきれていないようだ。
もっとも、フェイト達だって信じ切れてないのだが。
「・・・まぁとにかく、普通に戦えってことだな」
「当然だろう」
シミュレーターから、視界が開けて舞台は闘技場へと移る。
その圧迫感も臨場感も、何もかもがまるで本物のように彼らに襲い掛かってくる。
これは、バーチャルリアリティ(仮想現実)なのだ。「この世界」の人間にとっては。
彼らにとってはやや違ったが。
アナウンスの後、彼らの真正面口からモンスターが現れる。
「行くぜ!!」
まるで本物の戦場。それはまぎれもない「現実」だった。仮想などではなく。
気を抜いたら、やられる。
(どんなにケガしても、本人は無傷・・・・・・?)
そんな中にも関わらず、先ほどのクリフの言葉の意味をずっと考えている男がいた。
未開惑星出身である彼には、仮想現実だとかシミュレーションとかそういったものとは全くの無縁だったワケで。
考えても考えてもその意味が掴めずにいた。当然だが。
思案に暮れる彼に、モンスターが突進してくる!
「来るぞっ!」
「・・・!」
即座に彼は前方に走り出し、さらに前にいる仲間のすぐ後ろをかすめて過ぎ去った。
「え? アルベ・・・・・・・・どぉっ!!!」
突進してきたモンスターは真っ直ぐアルベルを追いかけたが方向修正しきれずに、そこにいたフェイトを吹っ飛ばした(!)
「・・・・・・どんなにケガしても本人は無傷・・・・・こういうことか!!」
「違ーうっ!!」吹っ飛ばされたにも関わらず、思わずツッコむフェイト。
ヨロヨロと体を起こし、アルベルに詰め寄る。
「何のつもりだよ! 危ないだろ!」
「・・・・・・・・・・・」彼はわずかに目をそらしていた。「・・・・・・・・・・強い者が生き、弱い者は死ぬ・・・それが弱肉強食・・・」
「違うだろっ!! 思いっきり!! 明らかに!! どう考えても!!」
「俺の行く先にいたお前が悪い」
「開き直る気かぁっ!!!」
「お前らっ!!」クリフから檄が飛ぶ。「ケンカは後にしろっ!」
慌ててバトルに戻るフェイト。やっぱり、このメンバー(というかアルベル)にチームワークというものを求めるのは、無理がありすぎだったようだ。
とても納得のいかない思いのまま、フェイトはバトルに専念する。
だが。
(・・・・痛っ・・)
わき腹を押さえる。さっき、吹っ飛ばされた後遺症か。
戦えないほどではないが・・・・痛みで集中力が一瞬途切れる。
「フェイト!」
ハッと顔を上げる。目の前に、大きな影があった。上から、振り下ろされるメイス。
普通の人ならどんなにケガしても本人は無傷ですむが、自分達はそうもいかない。
ここは、彼らにとっては現実なのだから。

刹那。

目の前の大きな影は違う影にとって変わられ、影が一つ崩れ落ちた。
「・・・・これで借りは返したぜ」
その影は、大きなカタナを振り上げ、さらなる相手に向って走り出す。
「・・・・・・・・・・・・」
少し、呆然としていたフェイトだったが。
「・・・って、元々お前が悪いんじゃないのか・・・・・?」
ちょっとだけ納得のいかない思いのまま、フェイトは再度バトルに専念した。


「すごーい!! さすが〜!!」
 ソフィアがやや興奮気味に出迎えてくれた。どうにか勝利した、戦士達を励ましに。
「微妙ではあったけど、大したものね」とはマリア。
苦笑するフェイト。
「フェイト、ケガは大丈夫?」
ソフィアが癒しの紋章術を使う。
「あ、大丈夫だよ」
「全くだ」少しムスッとクリフ。「戦闘中に漫才たぁ、余裕あるじゃねぇかよ」
「ま、漫才なんかやってないだろっ!!」
「ああいうのを漫才っていうのよ」マリアも参加。
わいわい騒ぐ仲間達を背に、アルベルはその場を立ち去ろう・・とした。が。
「待ちな」
呼び止められる。シーハーツの女スパイ。
「アンタもケガしたんじゃないのかい。治して『やっても』いいけど?」
「必要ない」
「そう。せいぜい、ケガを理由に足手まといにならないようにね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女に向き直る。それを肯定と受け取って、術を使い始めるネル。
「・・・あれ、どういう意味?」
「・・・・・・?」
「あの、ケガしても無傷って言葉。意味がわかんなくてね」
「・・・・・・・・俺も知らん・・・・」
自然と、フェイト達に目をやる。
「・・・ケガしても、治したら無傷ってこと?」
「・・・・・・・違う気がするが・・」
顔を見合わせる。きっと、このまま考えても答えは出ないだろうが。
「でも、一つだけわかったことはあるね」
ネルはフェイトとアルベルを見比べる。
「アンタと一緒に戦ってると命が幾つあっても足りない」
「・・・・・・言ってろ!」
立ち去る背中を見送って少しだけ笑って、ネルも仲間達の輪の中へと入っていった。




END




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