A Well-matched

 

 その騒動は、ある少女のある発言から始まった。

「フェイトちゃんって、けっこうカッコイイよね〜・・・・」


それを聞いていた、二人の少女がカッと目を見開いた。
しかし、当の少女はそれに気付かず。
「ちょっぴり頼りなさげだけど、優しいよね〜。恋人にするなら、あんなタイプがいいな〜」

 スフレ・ロセッティが仲間に加わってから、ほどない頃のことだった。
ゆえに、スフレがフェイトにまつわる確執を知らないのは至極当然なこと。
彼を取り合って、普段は仲のよさげな二人の少女が水面下で激しいバトルを行っていたことなど・・・・・
「あら、スフレ。狙ってるの?」
極めてにこやかに、彼女に微笑みかけるマリア。
「え? やだな〜、狙ってるとかそんなんじゃないよ〜。ちょっといいなって思っただけ」
「そう」
また、ニッコリと笑うマリア。それを見てソフィアは違和感を覚える。
やけにマリアがおとなしいが・・・・何か企んでいるのだろうか・・・・?
「でもね、スフレ。彼はやめておいた方がいいわ」
「え〜!? どうして〜!?」
「決して、彼を卑下するわけではないけれど、結構彼、優しそうに見えてハラの奥底はドス黒いし、カッコイイけど根性曲がってるし、爽やかそうだけど返り血をあびて楽しがってる危ない人よ。
どう? それでもアナタはいいわけ? ・・・・・・アナタのためを思っていっているのよ・・・・・・?」
頭を横に振るマリアの傍からソフィアは、それマリアさんのことじゃないの?・・・・などと考えていた。
「だから、彼はやめておいた方がいいと思うわ。・・・・・代わりに、アルベルあたりでどう?」
マリアさん、何気にひどい・・・・・ソフィアは思った。
「んー・・・・アルベルちゃんかぁ・・・・・結構面白いよね」
「そうねぇ・・・・確かにあの髪型は面白いわよね」
「髪型の話じゃないよ〜」
「じゃあ、格好の話かしら? 確かに、ちょっと常人離れしてるわよね。まっとうな人間が見たら絶対引くわね」
「・・・・・格好でもなくて・・・」
「ああ、ごめんなさい。言動の話ね? 一体どこの地方の言語なのかしらね、アレは。彼しか使ってないところを見ると、かなり一部地域限定よね。というより、そんなに使う人が少ないのなら言語というのもおこがましいわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
マリアさん・・・・なにかヤなことでもあったのかしら・・・・・・・ソフィアは思った。
「アルベルとなら、応援するわよスフレ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。考えとく」
「あらあら照れちゃって」
スフレの反応は当然の話だろう。ソフィアはもの言いたげにマリアを見た。
「・・・ああ、そうそう」と、マリアはいきなりソフィアを振り向く。「ソフィアも応援してあげるわよ」
「え!?」
「クリフとの仲を♪」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「やぁだ、照れちゃって」
「ソフィアちゃん、クリフちゃんが好きなの〜? 意外〜!!」
 ケラケラ笑うマリアを見やり、何やら目を輝かせているスフレを見やり、ソフィアは考えた。
ああ、そうですか・・・・・要するにそんなこと言ってフェイトを遠ざけようとするアナタの魂胆なわけですか・・・・・・
「・・・・マリアさん、クリフさんはちょっと年が離れすぎているし、そういうのは・・・」
「あら、愛に年の差なんか無いわよ。ねぇ、スフレ」
「そうだね〜、そうかもね」
「・・・・・・・・・・・マリアさん」かなり低音で呟くソフィア。「・・・・私にも、選ぶ権利ってものがありますから」
「・・・酷い発言ね、ソフィア」
「私よりはむしろ、マリアさんの方がお似合いですよ」
一瞬、火花が散った。
「小さい頃から一緒だったんでしょ? お互いのことを知り尽くしている、いいカップルじゃないですか」
「アナタねぇ・・・・・いい? クリフは育ての親みたいなものよ。そういう関係じゃないわ」
「クリフさんの方は、そうでしょうか・・・・・・?」
「じゃなかったら、縁切るわよ私は」
会話を聞きながらスフレは、クリフちゃん嫌われてる・・・・・と、気の毒に思った。
「でも、私達3人の中では一番マリアさんが年齢近いし、問題はないと思いますケド?」
「年齢は関係ないって言ってるでしょ? それに、もっと年の近い女なんかゴロゴロいるわよ。
手近なところでミラージュとかね」
「でもクリフさんはミラージュさんはあくまでもパートナーだって言ってましたもん」
「・・・・もう一人いるわよ。エリクールで出会った、ネル。私より4つも上よ、クリフとも仲良さそうだったし、問題ないわね」
「へー、どんなヒトなの〜?」
スフレに質問にマリアはウーンと唸った。
色々マリアの頭の中で考えが巡り、どうにかわかりやすく、このスフレでもわかるような説明をするには。

ピーンとひらめいた。

「アルベルの彼女」
『ええっっ!!!!?』
思わず二人は後ずさりした。
「彼氏いるんならダメじゃないですか!」
「アルベルちゃん、彼女いたの〜!!? 意外ーーーーー!!」
言ってから、ちょっと違ったかも? と思ったが、言い直すのもアレだし。
エリクールでアルベルと仲悪そうにしていてもなんだか仲の良さそうだった彼女・・・・・と言いたかったのだが。ちょっとはしょりすぎたみたい。
言葉って難しい。
「ってことは、結局アルベルちゃんもダメってことじゃん。どうしたらいいの〜!?」
「クリフさん・・・・」
「年離れすぎーーー!!」
「ワガママよ、二人とも」
溜息をつくマリアを、二人はジロリと見やった。
「理想ばっかり追い求めてないで、近くを見なさいよ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
二人は、互いにうなずき合った。
「だったら、私はやっぱり幼馴染のフェイトがいいんだと思います」
「フェイトちゃん、カッコイイよねー」
「えっ」
「マリアさんこそ、近くを見た方がいいと思いますよ。それじゃあ。
行きましょう、スフレちゃん」
「うん! またね〜、マリアちゃん!」
「あっ! 待ちなさい!!」



「フェイトちゃ〜ん、あっちにで一緒に踊ろうよ〜!! 楽しいよ!」
「フェイト、編み物の毛糸巻くの手伝ってくれる?」
「マリア特製ケーキ、召し上がれフェイト!!」
「ちょっと〜!! 割り込まないでよ〜!!」
「前からの約束だもん!!」
「どきなさい、小娘どもっ!!」
 少女達が普段より一層騒ぎたて、その中心ですっかり困り果てている青年が一人。
そしてそれを遠目で傍観している男が二人。
「・・・・なんだありゃ」
「知るか」
「二人とも、助けてくれーーー・・・・・・・・!!!」
哀れフェイト・ラインゴッドはしばらくの間、何故だか少女達に囲まれて幸せなのやら不幸せなのやら判断不明な日々を送ることになる。




END





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