Atrocious Youth

 

 それはある日の夕方ごろのこと。
ペターニの宿屋の一室にいたクリフは、ノックの音に気付く。
扉を開けてみると、そこには。

「・・・・あの・・・・ちょっといいですか・・・・?」

女性が数人。
クリフは少し驚いて女性達を見やった。
・・・・・でも、クリフは別に「お! 女が俺に用だと・・・!?」とか勘違いしたわけではない。
そこに居た女性というのは。
彼らが雇っていたクリエイター達だった。



「なんだ、用ってのは」
「あのー・・・・・つい最近のことなんですけど・・・」
伏目がちに呟く少女、マユ。
「・・・・その・・・・工房に・・・・・何ていうか・・・・・」
「ああ? いいから話してみろよ」
「私が言うわ、マユちゃん」と申し出たのはエリザ。「あのですね、最近夜中の工房に不気味な笑い声が響くんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・不気味な笑い声・・・・・・・」そのまま反復するクリフ。
「そりゃもう、『くっくっくっく・・・・』とか『あっはっはっは・・・・』とか、不気味なことこの上ないんですよ!」
声マネをしているようだったが、クリフにはいまいち掴めない。
「アルベルじゃねぇのか」
「・・・! た、確かに変な笑い声することありますけど・・・それは違う気が・・・・・」マユがフォローする。
・・・・いや、フォローではないか。
「変質者ですよ、きっと! だから、クリフさんに捕まえてもらいたくて・・・・・」
「成程な。わかった、今夜行ってみるとするか」
女性達は明るい笑顔になった。
『よろしくお願いします!!』



 その日の夜。
クリフは言われた通り工房へと足を運んだ。
もう誰もいないようだ。
「不気味な笑い声・・・・ねぇ」
正直半信半疑なのだが、彼女たちがとても怯えているのを見過ごすのもためらわれて。
ゆっくりと、暗い工房へと進入していく。

と。






「・・・・・・・くくくくっ・・・・あっはっはっは・・・・・・・ついに・・・・・」






!?

今、まじで笑い声がしたぞ!
クリフはゆっくりと声がした方へと向かった。
そこは、工房の部屋の一つだ。と、明かりがついているではないか!
間違いない、ここにいる。変質者が。
・・・・変質者が明かりをつけるものかどうかは今はさておいて。
拳を構えながら、クリフは部屋の中をそっと覗いた。
しゃがんでいる男の背中が見えた。







・・・・フェイト・ラインゴッドの。







「フ、フェイト!?」
思わず声が出てしまい、当のフェイトはハッとしたように振り返った。
そして目が合う。
「・・・・・クリフ・・・」
「な・・・・なんでお前がここに・・・・・!?」
「それはこっちのセリフだよ」
フェイトはおもむろに立ち上がる。
「ていうか・・・何やってんだお前・・・・?」
クリフは、フェイトが手にしていたモノに目をやって呟いた。
鉄パイプ。
「ああ、これか」鉄パイプを軽く振ってみせるフェイト。「ちょっと・・・・・改造をね・・・・・」
「か、改造・・・?」
「そう。たかが鉄パイプが、どこまで凶悪な武器に変化するかという改造さ」
「・・・・・・・・ただの鉄パイプじゃねぇか」
クリフの的確な返答に、フェイトは少し困った表情を浮かべた。
そして、近くにあった鉄製の箱に目をやると。
鉄パイプを軽く振り下ろした。



べこっ




「・・・・・・・・・・・・・・・」
鉄製の箱は見るも無残にひしゃげてしまった・・・・・・
「・・・・・なかなかだろ。こう見えても、ATK5000オーバー軽く行ってるしね」
「・・・・ご、五千だと・・・・・!!?」
「苦労したよ、ここまでするの・・・・・・・・」
しみじみと語りに入るフェイト。
「まずは攻撃力確保のために、闘技秘伝書を何冊も合成して・・・・・」
「ち、ちょっと待て!! ソレ、そんなに持ってなかったろうが!」
クリフの問いに、フェイトはニヤリと笑った。
「ジェミティでいっぱいもらったよ」
「はぁ!? ありゃ、シングルSランククリアの景品だろ? 1人1冊しか貰えねぇだろうが・・・・」
「貰う際に、ちょっとマリアの銃を借りたけどね」
「・・・・・・・・・・・・・・・何・・・・・・?」
貰う際に銃を・・・って、そりゃもしかして・・・・・・
「だって、あんなモノFD人にくれてやってもしょうがないじゃないか。
有効利用できる人間が使わないと」
「・・・・・・・おい、まさか・・・・・・・」
「みんな、快く僕にくれたよ。みんな親切だね」
どうやら・・・・Sランクをクリアしたキャラを持つFD人にたかったらしい・・・・・
そりゃ・・・・・・銃持った人間によこせとか言われたら・・・・・・あの世界の住人なら差し出すだろうよ・・・・・・クリフは頭が痛んだ。
「・・・フェイト、そりゃ犯罪だろ・・・」
「え、なんでさ。ただ、くれないかって聞いただけなのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それでね、闘技秘伝書を合成するのに素材が必要でさ」
「・・・! おいお前まさか持ち物から持ち出したんじゃ・・・!」
「いや、流石に僕の勝手でみんなの道具を使うワケにはいかないじゃないか」
「・・・・・・・・・・ああ、まぁ・・・・」
「だから、惨太からかっぱいだ」



え!?



「あいつ、隠し持ってたんだよ。売ってくれればいいのにさー」

ど、どういうことだ・・・!?
予想してなかった発言にクリフの思考が一時止まった。
惨太って、あの惨太のことか・・・・!?
「マリアの銃って便利だよね」
「マリアの銃のせいにするんじゃねぇよ!」
「そこまでしてようやく、この鉄パイプの完成ってわけさ。ほら、見てみろよ」
クリフは鉄パイプを受け取って見てみると。



鉄パイプ R-11

ATK+1000(1)
ATK+1000(1)
ATK+1000(1)
ATK+1000(1)
ATK+1000(1)
ATK DEF+30%
ATK DEF+30%
チンケな者どもを瞬殺する





「・・・・・・テメェ・・・・何気にチンケスレイヤーなんか混ぜやがって・・・・・」
「あ、そこにツッコむ?」
「・・・・・・・・・・・・・・というより、フェイト・・・・・」
「ん?」
クリフは、言っていいのかどうか悩んだ様子で口を開いた。
「お前・・・・さっき闘技秘伝書何冊も強奪したっつってたよな・・・・」
フェイトは口を尖らせる。
「強奪ってなんだよ。貰ったんだってば」
「いや、まぁそりゃどっちでもいいんだ。お前、このATK+1000のファクター・・・・・

無理に闘技秘伝書を何冊も合成しなくても、鍛冶のレシピ指定すりゃ増やせたんじゃねぇのか、これ・・・・・・・」





・・・・・・・・時が止まった(クリフはそんな気がした)







「・・・・・・・・なんだって・・・・・・・・・・・・?」

!!?

凄まじい威圧のオーラを感じて、クリフは思わず身構えた。
目の前にいるのは、怒りの権化。
こりゃ、やばいかもしれない・・・・・・! クリフは後退した。
怒りの権化は、ボソッと呟いた。




「・・・・・・・・・ライアスめ・・・いらない手間かけさせやがって・・・・・・・」










もしかして俺は、言ってはいけないことをコイツに言ってしまったんだろうか。






    *  *  *




 後日。
ペターニの宿屋の一室にいたクリフは、ノックの音に気付く。
扉を開けてみると、そこには。



「た、助けてください! 殺される!!」


眼鏡の青年クリエイターが真っ青になってしがみついていた。
フェイトか・・・・・・・
クリフは、ただ呆れるしかできなかった。




聞いた話によると。
凶悪な鉄パイプを作ろうとしたフェイトに効率的な改良方法を尋ねられ、これはやばいと察知した彼は思わず「闘技秘伝書を何冊も合成すればいいですよ」と、まず無理であると思われた方法を告げてしまったという・・・・



クリフはそれを聞いて、
もうお前契約ナシにしてやるから、どこか遠くへ逃げろ・・・・・・
としか、忠告してやれなかったという。





END





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