Black Happen

 

「よろしくお願いします〜」
 一礼し、彼女が協力してくれることとなった。
「それじゃ、とりあえずカルサアに行ってもらえるかな」
「わかりました! 頑張りますね」
一見のほほんとした、そのかわいらしい容姿にクリフは勿論フェイトも思わずボーッとしてしまう
「フェイト」
ハッとしてフェイトは声の主・・・ネルを見やった。
「な、な、何だい?」
「何動揺してるのさ・・・・まぁいいけど」
「ち、違うよ!」
「何が違うんだか」
彼らは今、カルサアの町から南東・・・カルサア修練場にいた。
某ギルドの薦めで、彼らは共に協力してくれる職人・・・クリエイターをスカウトしているところだった。
彼女も、その一人。名前はマユ。料理が得意なクリエイターだった。


 それから、しばらくの時が過ぎた。
フェイトに同行するメンバーも少々様変わりし、新たな同行者も数名加わった。
場所は、カルサアの町・・・・

「ちょっと工房に顔出していこうよ」
 フェイトの提案で一行はカルサアの中央部にある工房に行くことにした。
ここには、彼らと契約して作業を行っているクリエイターも数名在籍している。ちょっと、会いにいくために。
それが、「彼」の命運を分けてしまったのだ。

 工房の中は暗かったが、数名の職人が懸命に作業を行っているのがわかる。
彼らを契約している職人たちは、彼らの姿を見つけると一礼したり声をかけてきたりした。
そして。
「あ、フェイトさん」
彼女・・・マユもそうだった。
鍋をたくさん火にかけ、忙しそうにクルクル動きながらも、こちらを見てニッコリ笑った。
「忙しそうだね・・」
「あ、そうでもないですよ。・・・ちょっと失敗しちゃって・・・すみません」
「それは構わないよ」
「そうだ、せっかくだから試作品を召し上がっていきませんか?」
「いいのか?」とクリフ。
「やたっ! ラッキーじゃん!」嬉しそうに飛び上がるロジャー。
「へぇ、興味深いわ」とマリア。
「ああ、そうそう」
フェイトが切り出した。
「前に来た時にはマリア達はいなかったよね。紹介するよ。
彼女はマユさんで、契約している料理のクリエイター。
で、こちらがマリア」
「よろしく」
マリアが手を差し出す。マユもつられて差し出した。
そしてフェイトは辺りをキョロキョロ見回す。
「んで・・・・・あっちの方で孤独気取ってるのがア・・」
「誰の話だ、阿呆」
「・・・・アルベルだ」
「え? アルベルって・・・・・」
「ああ、『漆黒』の団長。キミも名前くらいは聞い・・・」
フェイトのセリフはそこで中断された。
「やだぁ! こんな場所で会うなんて・・・・ヤバイかも・・・」
「え?」
アルベルが口を開く。
「なんでお前がこんな場所にいる? 仕事はどうしたんだ・・・」
「え? え?」
状況が飲み込めず、戸惑うフェイト。
一方、二人の会話は続く。
「あ・・・それは・・・・その・・・・、転職ってやつですか?」
「ふざけろよ・・・・」
「でも! より好条件の職場で働きたいというのは、誰でもそうでしょう?」
「・・・・・・、なんだと・・」今、彼の顔がまともにこわばった。
「基地の方は、母がいますから大丈夫です。元々私はお手伝いだったし・・・・」
「・・・・・チッ・・・・勝手にしろ・・」
会話は終了したようだった。
「そういえば・・・・」ネルが呟く。「彼女・・・・カルサアの修練場にいたんだよね・・・あそこは『漆黒』の本拠地だしね・・・・・」
「あっ」
ようやく、思い出した。
彼女は、『漆黒』の調理場で配膳の仕事をしていたと。


「どうぞ、食べてみてくださいね」
 工房の片隅にあるテーブルに試作品の数々を並べるマユ。どれも、試作品という割にはおいしそうだ。
「おいしそうじゃんか!」
「悪ぃな、いただくぜ」
「ありがとう、マユさん」
「いいえ、丁度良かったです」
一行は厚意のままに試作の料理をご馳走になる。
「うめぇ!」
「さすが!」
「今度教えてもらいたいわね」
評判も上々のよう。ありがとうございます、と頭を下げるマユ。
しかし・・・・一人だけ、料理に手もつけずに向こうで様子を見ている者がいた。
「団長〜? いらないんですか〜?」
「・・・・・フン」短く返事(?)して目を閉じるアルベル。
「あら、おいしいわよ?」
マリアが声をかけても知らん顔。
「ほっとけ、マリア。いらねぇってんなら、無理に薦めるこたぁねぇよ」クリフが諌める。
「そう?」
「あ! そういえば!!」
マユが料理を順々に見比べる。そして、彼の方を向いて。
「ごめんなさい〜、団長、ピーマンがダメなんでしたよね?」
『えっ!!!!?』
皆が一斉にアルベルを見やり、当の本人は目を見開いてマユを凝視していた。
「・・・・な、あることないこと言うんじゃねぇ!」
「えー、でも・・・・いつもピーマンだけよって残してるの団長ですよね?」
「うるせぇ!! 阿呆なことぬかしてると容赦しねぇぞ!」
その時、彼はハッと気づく。フェイト達の奇異のまなざしが自分に向けられていることに。
「そうか・・・ピーマンが苦手なのか・・・」しんみりと呟くフェイト。
「うるせぇ!」
と、彼はいきなりこちらにツカツカやって来たかと思うと、料理の一つ(ピーマン使用)にフォークを刺してそれを口に運んだ。
「・・・・フン、相変わらずヘタクソだな」
と、またさっきの位置に戻っていく。
仲間達はしばし呆気に取られていた。だがマユは。
「団長! 食べれるじゃないですか!
母がいつも言ってたんですよ、団長ったらいっつもいっつもピーマンを残してばかりで、どうにか食べてもらえないかって・・・・・」
「テメェ!! それ以上ゴチャゴチャ言うんじゃねぇ!!」
「きゃーーー、ごめんなさーい!」
和気藹々(?)とケンカする二人を見やって、皆が話し始める。
「・・・・・意外だな」とはクリフ。
「コワモテみたいに思ったけど、結構カワイイところがあるのね」とマリア。
「好き嫌いしてるようじゃ、オイラみたいな男の中の男にはなれないよな」などとロジャー。
「・・・・・・・・・・・・・・(知らなくてもいいことを知ってしまった気がするわね・・・)」
ネルは終始無言だった。
未だケンカしている彼らを再び見やり、周囲は微笑ましい雰囲気になっていった。


 それから、しばらくの間一行の食事によくピーマンが使われるようになり、その度に調理担当のネルとアルベルとの小競り合いが勃発するようになったという。





END





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