Distorted Army

 

 最近、どうも様子がおかしい。


 あの、世界とやらを賭けた戦いから、数ヶ月の時が流れていた。
世界も、国も、今までと何も変わらない。
変わったのは、隣国シーハーツとの関係。
戦争状態も終結し、どちらの国も復興に精を出している。そして、友好関係でも築こうというのか、ウチの国王とシーハーツの神官の娘とやらが結婚しやがった。
それはまだいい。
問題は・・・・・・・



「おはようございます、アルベル様!」
「こちらは特に異常ナシであります!」
 修練場内を歩いていると、哨戒任務(という言い方はもう違うんだろう)にあたっている漆黒の兵士がこちらを見て告げた。
何気にそちらを見やって、一声かけようとして、思わず目を奪われてしまう。
「・・・・・・アルベル様?」
「どうかなされましたか」
かける言葉さえ失って、立ち尽くしてしまう。

 漆黒は、重装備の兵士の集まっている軍だ。
大抵のヤツはその重装備のままウロつきまわって、普段からムサ苦しいことこの上ないワケだが。
だから、気付かなかった。
普段の漆黒兵士にはない、何らかしらの違和感に。

「・・・・・テメェら・・・・・なんだ、その格好は・・・・・?」

そう、搾り出すのが精一杯だった。





そいつらは、どこかで見たような黒と濃い紫の模様の入ったマフラー(?)を鎧の上に巻いていたのだから。




「団長、ご存知ないんですか?」
「ご存知あるか、阿呆!」
「見覚えがないワケではないでしょ?」
「見覚えあるから聞いてんだよ」

そいつは・・・・・隣国の・・・・・あの女どもがまとっていたヤツにソックリじゃねぇか・・・・・!


「流行ってるんですよ、今」
は?
「そうそう、『どちら』がいいかで、色も変わってくるんですよ」
・・・・・・悪ぃが・・・・・全く意味がわからん。
「同じものを身につけることで、ご縁があるといいなぁという・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ジャキッ

「うわっ!! あ、アルベル様、刀はしまって下さいっ・・・!」
「テメェら・・・・・・・・いいから、経緯を詳しく説明しろ」
「・・・・う・・・・で、でも・・・」
「でも、なんだ?」
兵士どもはまるで怯えるような仕草を見せる。
「・・・・・・・・アルベル様、怒ってませんよね?」
「怒ってねぇよ!」
「お、怒ってる・・・・!!」
「ウダウダ言ってねぇで、さっさと話せ! たたっきるぞ!!」
「ひぃぃぃぃーーー!!!」


「・・・・最近、兵士の間で流行ってまして・・・・・・」
 恐縮した様子でそいつらは話し始めた。
「国王陛下とシーハーツのロザリア様がご結婚なされて、これからはシーハーツの女性とも仲良くなれる時代が来る・・・・と。
それで、気持ちだけでもシーハーツの方々みたく・・・・・・・」
「・・・・・本物の阿呆どもだな、テメェらは・・・・・・」
これがウチの漆黒の連中なのか・・・・・頭が痛くなってくる。
要は・・・・恋愛成就の願掛けみたいなモンか。
それも仕方ねぇかもな。漆黒は野郎ばかりでムサ苦しいしな。女も寄り付かないだろうよ。
「それで・・・・さっき言ってた、色が違うってのも意味があるのかよ」
その言葉に、そいつらは急に萎縮する。
「・・・・・あ・・・・あの・・・・・・」

「団長・・・・・・あの、刀・・・・しまって下さい・・・・・」
なんなんだ一体。
そういえば、抜いたままだったな。しまってやるか、かなり怯えているみたいだしな。
「で?」
「はい・・・・・この、濃い紫の他に薄い紫のやつを身につけているヤツもいます」
「その違いはなんなんだ」
「はぁ・・・・・・・・・・クレア様とネル様の違いですけど・・・・・・」


・・・・あ?



「濃い紫がクレア様派で、薄い紫がネル様派・・・・・・・ってことですけれども」
「・・・・・・・・・・おい」
「は、はいっ!?」
「さっき・・・・ご縁がどうとか言ってたな・・・・・・」
「あ、いや・・・・それは・・・・・・・・あやかれたらいいなぁと・・・・」
「と言いますかですね! どちらのファンか・・・みたいなものでして」
「流行ってるんですよ。とにかく」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こいつらは・・・・・・・
「おい」
ギロリと睨む。身を竦ませる兵士たち。
「・・・・・・・命拾いしたな」
「・・・・え・・・・・」
そのまま、そいつらに背を向ける。
「・・・・・その流行にのっとってる他の連中に伝えておけ。

死にたくなけりゃ、色を統一しておけとな」



「・・・・は、はい・・・・・?」
よくわかっていない風な返事。フン、わからなくてもいい。
そのまま、その場を立ち去った。





 後日、『漆黒』の食堂。近くの兵士たちの会話が耳に入ってくる。
「おい、聞いたか?」
「何を?」
「マフラー襲撃事件」
「ああ、聞いた聞いた! 何でも、薄い紫派のヤツばっかり闇討ちに遭ってるってんだろ?」
「犯人はわからないそうだぜ。物騒だな」
「・・・でも、なんで薄いのだけなんだろ」
「さぁ。薄いのが嫌いなんじゃねぇのか」
「なんだそりゃ」




だから言っただろうが・・・・・色を濃い方に統一しておけとな。






END





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