Distorted World

 

 「自分達の世界を守る」
そんな戦いから戻って、数ヶ月の時が流れた。
正直、いまだにあの戦いの結末がもたらした意味がわかりかねるが、今も私はここに在り、世界もまだここに在る。
それが、あの戦いの意味に違いないから。

 我が聖王国シーハーツは、先の戦争の傷跡を深く残したまま復興へと向っている。
無論それはあのアーリグリフも同じだろうけれど。
奇しくも、あの「星の船」との戦いは両国の距離を大きく縮める一端になっていた。
戦争の後、両国間の関係はかなり友好みたいで、アーリグリフ国王と、私の幼馴染でもあるロザリアとの結婚も執り行われ、これからは今までよりは平和な世の中が訪れると思う。
当面の問題は、国内らしいが・・・・・どうも最近様子がおかしいみたいだ。


「・・・あ、こんにちは〜、ネル様・・・・」
「ご、ご機嫌いかがですか〜?」
「任務、いつもご苦労さまです〜・・」
 ・・・・・前から気になってたんだけど・・・、最近部隊の女の子達の様子がおかしい。
前からといっても、私が国に戻ってきてからだが。
態度がよそよそしいというか、遠慮しているというか、避けているというか・・・・・・
あまりに気になったのでタイネーブ達に聞いてみたが、よくわからないらしい。
まぁ、タイネーブはともかくファリンなら何か感づいているかもと思ったが、「女の子は色々気まぐれなんですよ〜」などと。
・・・・・・よくわからない。
でも、このままにしておくのも気分が悪いので、直接聞いてみることにした。
・・・・後々、聞かなかった方が良かったと後悔するハメになるとは思いもせずに。


「ねぇアンタ達」
「は、はいっ!!!?」
 城の通路。一番態度が顕著に現れる娘達を呼び止めてみる。
やはり挙動不審だ。
「最近・・・・何かあったのかい? 様子がおかしいけど」
「え! あ、いいえ、そんなことは〜」
「・・・・・・・・・・」
ジッと見つめてみると、向こうも後ろめたいのか困った表情になる。
これは何か隠しているね・・・・・
「別に怒ってるわけじゃあないよ。ただ、気になってね」
「・・・いえ、でも〜・・・・・」
「ねぇ・・・・正直に話した方がいいんじゃあ・・・・・」
「そ、そうだよ・・・いつまでも隠しきれるもんじゃ・・・ホラ、ネル様って変に鋭いし」
「後からバレたら絶対ヤバいよ・・・・お仕置きされちゃうよ・・・・・」
・・・・小声で話してるつもりだろうけど・・・・・聞こえてるよ・・・・
やがて、彼女達は心を決めたらしく、こちらを真っ直ぐ見つめた。
「あの、私達・・・・・えと、怒らないで聞いてくださいね?」
「怒っちゃいないってば」
「あ、これを見て欲しいんですけど・・・」
彼女は、どこに隠し持っていたのか、微妙に厚い冊子を取り出して差し出した。
なになに・・・・・えーと、『歪の君をあがめる会・会員規約』

・・・・・・・・・・は?

何だか、意味がよくわからないんだけど・・・・・・
いや、なんとなくつかめなくもないんだけど、心のどこかでそれを認めたくなかったのかも知れない。
答えを求めるように彼女達を見やると、彼女達はやけに嬉々として言った。
「はい! アーリグリフの『漆黒』団長アルベル・ノックス様ファンクラブ会報です!」



   バサバサッ

・・・・・・・・・冊子が音を立てて足元に落っこちた。
・・って、アタシが落としたのか・・・・?
「ああ、ネル様! 粗雑に扱わないでくださいです〜」
「・・・・・・あ、ごめん・・」
今、彼女達は何と言ったのか? あまりに話の内容がブッ飛んだから、理解できないんだけど・・・・・
「・・・・・・・・・何? アンタら、アイツがいいっての?」
「はい!」
ああ、またそんな目を輝かせて・・・・・・
「・・・・なんで? 第一、殆ど面識もないんじゃないのかい」
「時々シランド城にいらっしゃるじゃないですか。アーリグリフからの使者とかナントカ」
・・・・そういえば、親書がどうだとか言って城に来たことは何度かあったか。
なんで俺がパシリなんだとか、非常に不機嫌そうだったのは覚えてるんだけど。
しかし、アーリグリフ国王もあんな失礼極まりない男を使者によこすってどういう考えなのか・・・・
いや、それはどうでもいいんだけど。
「・・・ファンクラブって何さ」
「そのままですよ〜。これでも結構会員数多いんですよ? シーハーツ・アーリグリフその他合わせて100人弱」
そんなにいるのか!
「そのうち半分くらいは『漆黒』の皆さんです」
男ばっかりじゃないか!
「みんな、あの奇抜な服装・思い上がった言動・残虐な行動に心奪われているんです〜」
・・・・・・・いや、それちっとも誉めてないし・・・・・
何か、頭痛くなってきた・・・・・
「・・・で、アタシに怒るなっていうのはどういうことさ?」
「あ、それは・・・・・ネル様に内緒で勝手に発足したら、ネル様怒るんじゃないかと思って・・・」
「なんでアタシがそんなことで怒るのさ。・・・まぁ、やるのは自由だしね・・・・・」
「あ、大丈夫です! ネル様!」別の娘が口を挟んだ。「ネル様は特別ですから。普通会員はナンバー1からですけど、名誉会長のネル様はナンバー0・・・・」
「ち、ちょっと待ちな!! 何だい、その名誉会長ってのは!!」
思わず声が荒くなってしまった。だって、今この娘、何て言ったか!?
「え、だからネル様は特別で・・・・」
「だから待ちなって! なんで、そこでアタシまで入れられてるんだい!?」
「だって〜」
彼女達は顔を見合わせた。
「よく、お二人が仲睦まじく話しておられるのを拝見いたしますから・・・」
はい?
・・・・・・思い出してみる。そんな誤解をまねくような会話をしてただろうか、私は?
ブッ飛ばしたりブン殴ったりケリ入れたりなら何度も・・・・あ、凍牙を放ったこともあるかな。
それが仲睦まじく見えるんなら、この娘達の目はなんて節穴なのか・・・・それとも、それすらも愛とやらのなせる技なのか?
わからない・・・・・・
「だから、普通の会員は抜け駆け禁止ですけど、名誉会長のネル様はOK・・・」
「・・・・・・もういいよ・・・・・好きにしてくれ」
頭がますます激しく痛み始めてきた・・・・・
「ってことは、もうネル様公認ですね!?」
「・・・・・・・・何でもいいよ、もう・・・」
「ありがとうございます! 良かった〜、グッズまで作ったかいがあったわ!」
・・・・・は? 思わず、彼女達を見やってしまった。
それを「興味を持った」と受け取られてしまったのか、また彼女達は嬉々として何かを手渡してきた。
何か、細長い布だけど・・・・・
「応援ハチマキです!」
・・・・・・・応援? 何を応援するのか知らないけど・・・・・・と、ふとハチマキに書かれている文字に目を止める。



     ヘソ出し上等!



・・・・・・・・・・・・・・・応援? 何を応援?
「そしてこれが応援ハッピです!」
・・・だから、一体何を応援す・・・・って、無理矢理手渡してくるし・・・・・
ハッピって、アレかい? 羽織るやつだよね? 襟の部分にも、文字が書いてあった。




     ☆クソ虫軍団☆



・・・・・この娘達は・・・・・重症だ・・・・・
めまいがしてきたよ・・・・・アタシはもうこれ以上関わってはいけない気がしてきた・・・・・
「そして、これが応援ウチワです!!」
まだあるのかい! ウチワって・・・・だから何を応援するのさ・・・・・・
彼女達はウチワを二つ渡してきた。種類が違うのか?
一つには「阿」、もう一つには「呆」と書いてある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

あの・・・アンタ達?
これ、絶対応援グッズじゃないってば・・・・・・・・
そりゃ、この三つの単語があればあの男を語れるけどさ(さりげに酷い)、何かが違うだろ、何かが・・・・・
ま、アタシがツッコむことじゃないけどさ。
というか、ヘタに関わったらどうなるかわかったもんじゃない。
「ま、頑張っておくれよ。アタシは遠くの方からひっそりと歯牙にかけずに応援するからさ・・・」
手渡された応援(?)グッズを返そうとすると、何故かつっぱねられる。
「それは、名誉会長に差し上げます」
いらん!!
・・・・・とも言えないし・・・・・
「はは・・・・あ、そう。それじゃ、一応預かっておくけど・・・・・」
後で燃えるゴミにでも出すか・・・・・
私は深く後悔した。問いただすんじゃなかった・・・・



「ったく、人づかいが荒ぇんだよ、あの野郎! ちょっとぐれぇ偉いからってよ・・・・」
 数日後のこと。例の男がまた国王に使いっぱしりさせられたみたいで、謁見が終わるやいなや、わざわざ文句つけに私のところに来る始末。
グチりやすいんだか嫌がらせだか何だか知らないけど、そういうことするから、あらぬ誤解を招くんじゃないか。
と、そうだ。
話してみるか? どういう反応するか・・・・・

「知ってる」
え? ・・・・今、何て言ったか、この男。
「・・・・・・アンタ、許せるわけ? アンタみたいなヤツに騙されてる、カン違いした気の毒な連中を?」
「・・・・好き放題いいやがるな、テメェは・・・・・」
何かほざいてるけど、無視して続ける。
「何を思ったか、グッズとか作ってるんだよ?」
「ああ、それか。なんつっても俺デザインだしな」






・・・・・は?






一刻後、気づいたら思いっきり力任せにその生ッ腹に中段蹴りをお見舞いしていた自分がいた。

その後、クリムゾンブレイドの権限使ってまで、ファンクラブを強制解散させたのは言うまでもない話・・・・・





END





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