Underdeveloped Rhapsody

 

 常日頃から、彼女はいつも思い悩んでいたことがあった。
彼女は踊り子だ。毎日毎日、練習を積み重ねている努力家。
踊りを踊るというのは半端な体力ではつとまらない。日々、体力訓練みたいなのもこなしている。
ゆえに、彼女は相当な健康体。身も引き締まっている。だが、それゆえに彼女は悩んでいた。


「はぁ〜ぁ・・・・・」
 暖かい日差しが差し込む、カフェテラス。せっかく頼んだジュースにもほとんど口をつけないまま、スフレ・ロセッティは考え込んでいた。
「スフレちゃん」
呼ばれて、スフレは振り向く。そこには、ニッコリと微笑んだソフィアとその後方にマリアがいた。
「どうしたの? 何か考え込んでるみたいだけど・・・・・」ソフィアは向かいの椅子に座る。
「悩みでもあるのなら、聞いてあげるわよ」マリアもそれに続く。
スフレは二人をジーッと見つめて、はぁ、とため息を一つ。
「・・・どうしたの?」
「・・・・・・・・・いいなぁ、二人とも」
『え?』
「だって、アタシより胸おっきいんだもん」

 ・・・・しばらく、二人の少女は返す言葉を失った。さらに浅黒の少女は続ける。
「アタシだってもう14なのに・・・・ぺったんこなんだもん。ソフィアちゃんまではいかなくても、マリアちゃんくらいは欲しいなぁ〜・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
二人は黙り込んだ。いやな沈黙が流れる。
スフレに悪気はない。素で言ってるのだ。言ってるのだが・・・・・
「ねぇソフィアちゃん、どうやったらそんなにおっきくなるの?」
「え・・・・・・・・・!? えーと・・・・・・・」返答に困るソフィア。当然だが。
「・・・全くスフレに同意だわ。一体何を食べたらそんなに大きくなるのかしら」
マリアの言葉にソフィアが一瞬こわい顔でマリアを見た。
「・・・・・・・・・別に何もしてないですよ。 えと、スフレちゃん・・・あせらなくても、そのうち自然に成長すると思うな、私・・・」
「本当に?」
「本当よ」
「・・・・自然に成長したにしては、やや不自然な大きさよね・・・・」
ボソリと呟くマリアを、今度はソフィアは思いっきり睨んだ。
「・・・ひがんでるんですか、マリアさん」
「あら、心外ね。ありのまま感じたことを述べただけよ?」
静かに、争いの火花が飛び交う。
「あ〜、二人とも落ち着いて落ち着いて〜」
あわててなだめてみる。いったん、沈静する。
「・・・気にすることないわよ、スフレ」
「そうよ、スフレちゃん」
「考えてもごらんなさいよ。アナタ、踊り子じゃない。
胸がこの子くらい大きかったら、踊るたびに揺れて揺れて痛いわよ。こころもち、小さめの方がいいと思うわよ。何かと」
これを受けて、さらに睨みつけるソフィア。
「・・・・マリアさん、どうして大きいと揺れたら痛いってわかるんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんですって・・・・・・・・・・・・?」
一触即発。激しい女の戦いの予感。
「あ・・・・ケンカはダメだよ、ソフィアちゃんもマリアちゃんも・・・」
『黙ってて!!』
「は、はいっ!」
もう駄目だ・・・・・爆弾に点火されてしまった・・・・・・
こうなれば、彼女には止められない。・・・・・となると。
「・・・ア、アタシ用事思い出しちゃった! じゃ〜ね〜、二人とも!」
そそくさと逃げ出すのみ。
その後彼女達がどうなったかは神のみぞ知る。


 トボトボと表路地を歩くスフレ。やはり、悩みを気にしながら。
「どうしたんだい、スフレ?」
呼び止められ、振り向く。パーティに数少ない、大人の女性ネル。
「アンタにしちゃ、元気がないようだね」
「あ〜・・・・そう見える? やっぱ?」
スフレは悩みの種をネルにも打ち明ける。
「・・・・・胸・・・ねぇ。でも、そればっかりはアタシらにはどうしようも・・・・・」
「だよね〜・・・・・・・・あ、でも!」
スフレはいきなり明るい表情に。
「たしかさ、胸って揉んだら大きくなるんだよね?」
「・・・・・・・・・・・・・とはよく言うけどねぇ・・・」やや目をそらすネル。
「ってことは、ソフィアちゃんもそうなのかも・・・・。
・・・・・! あ! いや! 違う!
きっと、フェイトちゃんに手伝ってもらってるんだ! そう思わない、ネルちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
絶句。この子は・・・・ネルは頭を押さえた。体の発育はともかく、精神ばっかり発育してるらしい・・・・・
「・・・・スフレ・・・・事実関係はともかく、それ、マリアにだけは言っちゃいけないよ」
「・・・・・・・うん」
もし言おうもんなら、恐ろしい結果を呼ぶことになるだろう。
と、スフレはネルをジッと見つめ始めた。
「どうしたんだい」
「・・・ネルちゃんもおっきいねぇ」
「そ、そうかな・・・・・・普通だと思うんだけど・・・・・・」
「ネルちゃんの場合だったら・・・・・やっぱアル・・・・・」
そこまで呟いて、スフレはハッとした。ネルがこちらを睨んでいる・・・・・・
「なんだって、スフレ? よく聞こえなかったよ・・・・・もう一度言ってごらん?」
「・・・ネルちゃん・・・・・目が据わってるよ・・・・・・」
恐怖におののくスフレ。
これだけはわかる。もう一度言ったら、二度と踊りを踊れない体にされてしまう・・・・・と。
「な、なんでもないってば! それじゃ〜!!」
逃げるように走り出すスフレ。
いけないいけない、気をつけないと。


 走り回って、彼女は宿屋まで戻ってきてしまった。
ちょうど、青髪の青年も戻ってきていたところに出くわした。
「スフレ、どうしたんだい息せき切って」
「あ、フェイトちゃん・・・・・・」
色々買い物をしてきたのか、フェイトはたくさんの荷物を抱えていた。
そんな彼をジーッと見るスフレ。
「?」
「・・・・・・・フェイトちゃん、男の人ってやっぱ、おっぱい大きい女の子が好きなの?」
「はぁ!!?」
思わず、荷物を落としかけるフェイト。
「どうなの?」
「・・・・え・・・・・・いや・・・・・そんな、特には・・・・・・その・・・・・・モゴモゴ」
「聞こえないよー」
「・・・・どうしたんだい、スフレ・・・・・・・・」
「やっぱ理想(の胸)はソフィアちゃん?」
「・・・・・・・・いや・・・その、そういうんじゃなくてさ・・・・・
・・・・小さくても別に構わないけど、でも大きいのも悪くはないかも・・・・・モゴモゴ
「えー? 何ていったの? 聞こえないよー」
「な、何でもいいだろ! それだけで女の子を選ぶわけじゃないし。人それぞれだろ」
「うーん・・・・・・そっかぁ・・・・・・」
スフレはめいっぱい伸びをした。
「それぞれかぁ・・・そだよね。アタシはアタシ、ソフィアちゃんはソフィアちゃんだもんね」
「ああ」とフェイトは笑う。

 しかし。
「そーやってお前はいつも奇麗にまとめようとするよなぁ・・・・」
お声はいきなり宿屋の中から響いた。パーティの最年長・きっての女好き、クリフ・フィッターだ。
「ク、クリフッ! ビックリするだろっ!」
「いやぁ・・・・いつ話に入ろうかと、さっきから様子を伺ってたんだが・・・・」
「クリフちゃんは、胸の大き・・・・・」
素直に普通に尋ねようとしたスフレを、あわてた様子で止めるフェイト。
「ダメだ、スフレ! コイツにそんな質問したって、どうせ返ってくる答えは決まってる!」
「そぉ?」
「ああ!」フェイトはクリフをチラリと見やり、小声で。「絶対、巨乳大好きとか言うに決まってる」
「聞こえてるぜフェイト」
一方、苦笑するクリフ。あわてて取り繕うフェイト。
「あ、いや、だってそうだろ! 違うのか?」
「・・・・チッチッチッ・・・・わかってねぇな、フェイト。デカイだけじゃダメなんだよ。
ホレ、やっぱ・・・・こう・・・・・カタチだよ、カタチ。俺的には、ネルのとか結構好みだな」
やけに熱く語るクリフを、呆然と見守るフェイトとスフレ。
「・・・・クリフ・・・・・最早ただのスケベオヤジだな・・・」
「うるせぇ!」
「ネルちゃんが理想かぁ・・・・・・うん、頑張るぞーー!!」
その一方で何か間違った方向に決意を新たにするスフレ。
呆れたようにため息をつくフェイト。


「アタシが何だって?」
 冷たい声が響いた。ギクッとし、クリフはそちらを見た。
いつの間にやら、シーハーツの女隠密がクリフを睨み据えてそこに立っていた。
「・・・・クリフ。アンタは、常日頃からそういう目で女を見ているわけかい・・・?」
「・・・ご、誤解だ、ネル・・・・・・好みってだけで、別に・・・・・・」
「問答無用」
同時にダッシュで逃げ出すクリフ、短刀片手にそれを追うネル、そしてそんな微笑ましい光景を見守るフェイトとスフレ。
「・・・・・部屋に戻るかい、スフレ」
「うん!」
何かを悟ったようなスッキリとした表情で、スフレは晴れやかに宿へと姿を消した。


本日の教訓。胸が大きいと、セクハラ受けちゃうんだー





END





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