Catch up With Somebody

 

 最初に感じたのは、フェイトの変化。そして、自分との格差。
少し見ない間に、フェイトはとても力強く、たくましくなっていた。
彼と、彼の仲間達。
自分だけ、どこか違う存在。
そう・・・・・私は果たして、どこまでついて行けるんだろう・・・・・・


 彼女達の世界とはやや異質な世界・・・・FD世界で、ソフィアは大きなため息をついた。
何も変わらないまま過ごすFD人、変えようとしない人々。
自分は、このままでいいのだろうか・・・・・・
「・・・・・・なるほど・・ねぇ」
話を聞いたネルが呟く。ソフィアはうつむいたまま、うなずいた。
一番、相談しやすそうだった彼女に尋ねたのは、ある意味正解だったかもしれなかった。
「・・・ネルさんもそうだし、クリフさんだってマリアさんだって戦える・・・・・・
スフレちゃんも戦闘向きな種族だし・・・・・・私だけ、足手まといなんじゃないかって・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どう返事しようか迷うネル。正直、その事実は否めない。
それも仕方の無いことだ。ついこの前まで普通の女子高生だったソフィアに、いきなり戦えというのも無理な話だ。
「・・・・要はさ・・・・強くなりたいんだろ?」
「・・・・・・はい・・・」
「誰しもね、いきなり強くなるのは無理ってもんさ。まずは、アンタにできることを探すのが大事だよ」
「私にできること・・・・・・ですか」
ソフィアは考えた。
「・・・・・・家事手伝い・・・・」
「・・・戦闘向きではないね・・・・・でも、それなら調理担当で・・・・」
「でも、それじゃダメなんです! みんなが必死で戦ってるのに、私だけ逃げ回ってるのがイヤなんです・・・」
うーん・・・・・ネルは頭を悩ませた。
そしてソフィアをジッと見つめた。
「・・・・・・・格闘は無理そうだし・・・・力なさそうだし・・・・運動得意じゃないだろ、アンタ?」
「・・・はい」
「じゃ、どうしようもないね・・・・・・あきらめな」
「そんなぁ!!」
悲痛な表情を見せるソフィアに、困惑するネル。
気持ちはわかるが、戦闘経験のない素人に一朝一夕で戦闘技術を教えても身につくわけがない。
素人でもできそうなもの・・・・・・・・ふとネルは思いついた。
「そうだ、投擲とかどう?」
「とうてき?」
「物を投げるのさ。戦闘用なら、ナイフとか・・・・そんな感じ」
「ナイフを投げるんですか!?」
「ああ。・・・・・怖いかい?」
「い、いいえ! やってみます!」
「いい返事だ」
ネルは向こうにいた人影に目をやり、ソフィアを見る。
「時間もあんまりないし、一から教えるようなことはしないよ。実戦さながらにやってもらう。覚悟はいい?」
「・・・・は、はい!」
真剣な瞳で答えるソフィア。うなずくとネルは向こうに歩いていく。
このとき丁度向こうをクリフが歩いていたのだが。

 一刻のち、ネルの準備が整った。
少し離れた向こうにクリフが、よく状況が理解できていない表情で立っており、その頭上にはリンゴ。
「とりあえず、用意はできたよ」
「あの・・・・ネルさん?」
「ん?」
「・・・・・・いいんですか?」
「ああ」
「おい、ネル!!」向こうからクリフの声が。「お前、一体何やらかすつもりなんだ? このリンゴは何なんだ!?」
「これからソフィアがナイフ投げの練習するから」
「!!!!?」
クリフの顔色が変わった。
「ち、ちょっと待て!! もしかして、俺は練習台か!?」
「そうだよ、飲み込みが早いね」
「待てっつーの!! ソフィア、ナイフ投げなんかできんのか!?」
「だからこれから練習するんじゃないか」
「外れたらどーすんだっ!!」
ネルはしれっと答えた。
「外れたら、アンタのその人並み外れた運動神経でナイフを避けてくれればいい」
「簡単に言うなーーーーーーっ!!」
「あ、あの、ネルさん!!」
あわてた様子でソフィアが止めに入った。
「私、リンゴに当てる自信全くないんですけど・・・・・危険じゃないですか?」
「ソフィア、実戦さながらって言っただろ? これくらいの緊張感を持ってやれば、上達も早いよ」
「だから待てーーーー!!! 俺が一番あぶねぇじゃねぇか! 無理に俺でなくても、お前がここに立てばいいだろうが!」
「文句多いね・・・・・」ネルが顔をしかめる。「とりあえずソフィア、あいつ黙らせて」
「え、あ、はいっ(知らないから、もう)」
ヒュッと風を切る音がし、クリフは思わず逃げ出した。
が、ソフィアの投げたナイフはクリフに届くことなく床に落っこちた。
「・・・・あの・・・あんなとこまで届かないです・・・・」
「みたいだね」
女性たちの会話を聞きながら、クリフはついその場にへたりこんだ・・・・・


「・・・・強くなりてぇのか・・・」
 うーんと唸るクリフ。
「俺は、無理にお嬢ちゃんが戦わなくてもいいと思うがな」
「でも・・・・それじゃ私・・・・」
「戦闘は戦えるヤツに任せておけばいいんだよ。俺とかコイツとかフェイトとか」
「・・・・・・・・・・・」
それでは納得がいかない。やはり足手まとい以外の何者でもない。
「・・・・困ったな」
「だろ? アタシもどうしたもんかと思ってね・・・・・」
二人はソフィアを見つめて再度悩む。
「・・・・ごめんなさい、迷惑かけて・・・・・」
ソフィアはうつむいて呟く。
「何にもできない女の子が、こんな大変な戦いについてきちゃって・・・・・でも・・・・(フェイトと離れたくなくて)」
「・・・・・・・・・・」
あんまり否定もできないが、ハッキリそれを言うのはさすがにためらわれた。
だからこそ彼女なりに戦おうとしているのだから。
「まぁ・・・・なんだ、その・・・・気にすんなよ」
「その気持ちがあれば、みんな迷惑に思ったりしないさ」
「・・・・本当ですか?」
『ああ』
ソフィアは嬉しくなった。自分は、ここにいてもいいんだ・・・・・
ならせめて何かお手伝いできるように頑張るから・・・・・・彼女は微笑んだ。



「・・・・そういやぁ、そんなこともあったっけ?」
 襲いくる敵の猛攻を軽くかわしながら、クリフは言った。
「ああ、そんなに前の話じゃないよね」
その隣でネルも答える。
「いやまぁ・・・・・いいんじゃねぇの? おかげで結構こっちはラクだぜ」
「確かに。退避するのが大変だけどね」
「クリフ! ネル! 来るぞ!!」
フェイトの声に、二人は急いでその場を離れた。
その直後、鋭い声が響き渡る。
「エクスプロージョンッ!!!」

 激しい爆発のあとに残ったものはほとんどなく。何もかもをあらかた焼き尽くしたその光景はまさに圧巻だった。
戦う術を持たなかった少女は、旅のさなかで彼女なりの戦い方を見つけた。
そしてそれ故にいまやパーティ最強といわしめるまでになったのも、そんなに前ではない話。

全く女ってのは怖い生き物だ・・・・・・フィッター氏はそう感じざるを得なかったという。





END





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