Unheard-of Adventure

 

「・・・・ああ、了承してもらった・・・・・だから・・・・・・これから・・・・」
 フェイト達一行はシランド城を訪れていた。女王にある許可をもらいに。
事は滞りなく進み、彼らは新たな出発の準備に余念がなかった。
そんな彼らを、物陰からジーッと見つめる影があった。
小柄な体、不釣合いに大きいヘルメット、ふさふさの尻尾。ロジャー・S・ハクスリー。

 フェイト達との様々な冒険の後、彼は一人サーフェリオに戻っていたのだが、冒険心がうずく日々を送っていた。
そのため、しょっちゅうペターニやカルサアまで出向いては、面白いことはないものかと目をギラつかせていた。
そんなある日、彼はペターニでフェイト達の姿を見かけたのだ。
何らかの冒険の最中のように見えた。様子を伺うロジャー。
かつてのメンバーから、自分が抜けて少女が一人加わっていたようだった。なんで、誘ってくれないんだ・・・・?
その後彼らはシランドへ向かったため、彼もそれを尾行してシランドにやってきたのである。そして、新たな冒険のにおいを嗅ぎつけたのだ。
彼のその大きな耳に飛び込んできたのは、聖殿カナンという単語。
ロジャーも聞き覚えがあった。
以前、ばんでーんとかいう奴らが攻めてきたときに、ナントカという宝珠を守るためにそこへ向かった。
いかんせん、話の内容が小難しくてロジャーはいまいち把握しきれていなかったのだが。
今回はどうやら、その宝珠が目当てらしい。
ならば・・・・ロジャーはニヤリと笑った。
オイラに内緒でこんな楽しそうなことやりやがって・・・・・オイラの力見せてやるぜ!
フェイト達がシランドで態勢を整えている間に、ロジャーは一人大聖堂から地下へと向かった。


 カナンへ続く道は相変わらず暗くて静かだ。
しかし、雰囲気に負けてもいられない。ロジャーは手持ちの斧を大きく振り上げた。
「見てろよー! オイラを冒険に連れて行かなかったことを、後悔させてやるじゃん!!」
通路が終わり、広間に出る。
そこにいた、何枚かの翼を持った黒いひょろ長いヤツと目があう。
「・・・・・・・・・・・・・・・キエロ」
「うわぁーーーーーーーーーーっ!! で、出たーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
追いかけてくる黒いヤツ(断罪者という名前はあるのだが)から、死に物狂いで逃げ出すロジャー。
かなり走ったところで、追いかけて来ていないことに気づいたロジャーは、ようやく一息つく。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・もう追ってこねぇだろ・・・・・・」
全く、ヒヤヒヤさせるぜ。あんなヤツ、オイラがちょいと本気になればやっつけられたけど、無益な殺生はしないのが男じゃんか。
自分にそう言い聞かせ、ロジャーは先へと進み始めた。

 封印洞を悠々と歩くロジャー。敵がいたら逃げの一手で先へ進む。
幸い体格の小さい彼は敵の目にも留まりにくいようだった。
しかし、前に来たときとは敵が違うような気がする・・・・・・そういえば、サンマイト草原にもイリスの野にも、なんだか見たこと無い魔物がうじゃうじゃいたような。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・やめときゃ・・・よかったかな・・・・?」
しかしロジャーはブンブンと頭を振った。ダメだ、ここで弱気になってどうするんだ! 男だろ!

   がこんっ

大きな物音がし、ロジャーは何かと思ってひょいと上を見上げる。
天井が目の前に迫っていた。
「のわーーーーーーーーーっ!!!!」
あわててダッシュして転がって安全な場所へ。
そういえば、天井が上下に動くトラップがあった・・・・・・
「・・・はぁ・・・・・寿命ちぢまるぜ、全く・・・・」
それでも、もう引き返せない。何としてもフェイト達より先に最深部に到達して、彼らをあざ笑ってやらなければ!
そうすれば、フェイトの兄ちゃんもあのデカブツもあのプリン頭も、オイラを敬ってへつらうようになるさ(多分ならないと思われるが)
そしてマリアの姉ちゃんや名前も知らない姉ちゃん(ソフィアのこと)、そしてそして、麗しのネルお姉さまもオイラの力強さにイチコロ・・・・って寸法だ(やはり、ならないと思われるが)
作戦は、完璧だ。
意気揚々と、ロジャーは先へと進んだ。


 封印洞をなんとか抜け、ロジャーはいよいよ聖殿カナンにたどり着く。
しかし・・・・・空気が前にも増して張り詰めているというか、比べ物にならいほど殺気だっているというか・・・・・・とにかく前に進むのがためらわれた。
「・・・・ここで待って、一緒に・・・・」
そんな考えすら浮かんだ。場所はともかく、自分が先に進んでいるという事実があればいいのだから。
・・・・・・・しかし。
『なんだテメー、つまりはこっから一人で行くのが怖くなったんだろぉ?』
デカブツのあざ笑う声が聞こえてくるようだ・・・・・・
ダメだダメだダメだ! そんな事態は避けなければ!
ちょっぴり怖いけど、ロジャーは先へ進むことにした。


 しかし・・・・・
「迷ったーーーーーー!! ここはどこだーーーーーーー!!」
聖殿カナンは相当だだっぴろい。以前にフェイト達と来た時にもやはり迷子になったのだ。
確かあの時は・・・・・
ロジャーは、懐からあるものを取り出した。
・・・・・・・・・ドリルアーム。
道がわからないなら、作ればいいじゃん!
大体、その発想自体無理があると思われるのだが、実際、彼らは以前似たようなことをやってのけた。
バニッシュハンマーなるものを使って。


 ドリルで穴を開けながら進んだ先に、広い部屋を見つけた。
天井からその残骸らしきものがたくさんぶら下がっている。そして扉らしきものもない。
はずれか・・・・・と引き返そうとした時、ロジャーはあるものを目にする。
「お! 宝箱じゃん!!」
こんなところにお宝が眠っているとは! これはゲットせねば。
ちょこまかとロジャーは宝箱へとまっしぐら。やがてたどり着く。
「へへ・・・何が入ってるかな〜・・・・」
中に入っていたのは、オーブだった。
それを見て、ロジャーは首をかしげた。
見たところ宝珠のようだが・・・・・まさかこれがナントカっていう宝珠・・・・?
いやしかし、ナントカの宝珠はもっと奥にあった気がする・・・・・
とにかくもらっておこう。
懐にそれをしまい、ロジャーはさぁ帰ろうと振り返った。
すると。
さっきまで動きのなかった、天井からぶら下がっている振り子が、なぜだか勢いよく揺れているではないか。
まさか・・・・宝箱のトラップ・・・・・!? ロジャーはしくじった、と思った。
ここから、さっきの出入り口に戻るには、この揺れる振り子の群れをかいくぐらなければならないのだ・・・・・・・
あんなもの、万が一当たったらロジャーなんか軽く吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされるだけで済めばいいが・・・・・ロジャーはゾッとした。
「・・・・・こ、こんなとこであきらめてたまるかよっ!!」
ロジャーは体勢を低くする。そして、何も考えずに頭からダッシュをかけた!
「ラスト・ディッチーーーーー!!!!!」

 人間、その気になれば何でもできるものである。いや、彼は正確には人間とは違ったが。
彼の無謀なまでの勢いと、ヘルメット、そして彼の石頭が彼をどうにか窮地から救い出せた。
「・・・・ふぅ、大分遅れを取っちまったな・・・・・急ぐぞ」
再度、ドリルで壁を突き進んだ。




「・・・・・ようやくここまで来たな・・・・」
 彼らは、以前にも訪れた聖珠セフィラの安置場所の手前まで来ていた。
「セフィラはこの先ね」
「よし、行くか!」
その時だった。


   ドゴォォォン!!


突如、右側の壁が破壊され、そこから数本ミサイルの弾道が彼らを目指して来ていた!
「新手の魔物かよ!?」
「戦うわよ!!」
破壊跡から現れた魔物に、一斉に襲い掛かる一行。
その時、命運は決まっていたのだ。
数分後、一斉に不意打ちを食らったロジャーがそこに倒れ伏すのを彼らは目撃することになる。



「まさか、ロジャーがあんなとこから現れるなんて、思ってもなかったから・・・・ごめん」
「たった一人でここまで来たっていうの? 勇敢を通り越して無謀だわ」
「ま、チビスケにしちゃ上出来だ」
「そうやって甘やかすんじゃないよ。こんなバカなまね、もうよしなよロジャー」
「・・・阿呆が」
「・・・・・お知り合いなんですか? なんだかカワイイ・・・・・」
思い思いに言い合う彼らに取り囲まれ、ブスッとするロジャー。
「・・・・・なんでオイラを誘ってくれなかったんだよ。オイラ、そんなに頼りないかよ・・・・」
「・・・・ロジャー」フェイトがしゃがんで彼の目を見つめる。「頼りにしてないわけじゃないよ。でも、今エリクールにも断罪者達がはびこってる・・・・そいつらをどうにかできる者が残らないと、誰がエリクールを守るんだい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕達の代わりに、エリクールで戦って欲しいんだ。僕らは僕らのやらなければいけないことをやるから・・・・・任せてもいいかい?」
「・・・・・・・・・」
ロジャーはしばらくうつむいていたが、やがて顔を上げた。
「仕方ねぇなぁ・・・・・そんなのオイラにどーんと任せて、お前らはお前らのやんなきゃならねぇことをやるといいじゃんよ!」
鼻息荒くふんぞりかえるロジャーを見て、苦笑するフェイト。
「・・・・しかし」小声でクリフがネルに耳打ちする。「フェイトもまぁ・・・よく、ああも堂々と詭弁叩けるもんだよな」
「全く。・・・・そりゃ、ハッキリ『アンタ連れてるとすぐ壁とか壊したがるからイヤ』とは言えないよね」
「ここに来る途中もボロボロだったもんなぁ、壁」
「・・・・・シーハーツの最重要箇所になんてことしてくれるんだか、あの子は・・・・・・」

 ロジャーは勿論彼らの思惑など知らない。
ただ今日も明日も、彼は彼の道を突き進むのみだった。





END





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