Once Again -Her Side-

 

「最近、ネル様変わったわよね」
「そうね〜・・・・これは〜やっぱり〜・・・?」
「でしょうね・・・・・・」
 シランド城の一室。この前長い旅から帰還してきたネルは、最近再び国の復興に精を出し始めた。
しかし・・・・以前の彼女と印象が変わったのは、誰の目にも明らかな変化だった。
これはやはり・・・・・・
構わなければ平和に違いないのに、でしゃばりな二人の少女は事の真相究明に乗り出した。
「ズバリ〜、ネル様は好きな人ができたに違いないです〜」
紫髪のおっとり少女ファリンが指を交互に組んだ手を頬の下に持ってくる、夢見がちなポーズをとる。
「ここはやはり部下として、ネル様に幸せになってもらわないと・・・・ね」
茶髪の活発少女タイネーブが顎に手を当ててうなずいてみせる。
「でも〜・・・・誰なのかしら〜」
「・・・・・・・やっぱり・・・・一緒に旅してた男性の中の誰かなんじゃないの?」
「・・・・だとすると・・・・・・」


 シランド城内。戦後の復興のため懸命に働くネルに、二人の部下が近づいた。
「ネル様」
「ん? ああ、タイネーブ、ファリン。毎日ご苦労さん。どうしたの?」
「この前、ロザリア様の結婚式が行われたじゃないですか」
「ああ」
「ネル様も、出席なさいましたよね〜」
「ああ、シーハーツ代表でね。ロザリアは個人的にも友達だし」
「どんな感じでした?」
ネルは目を閉じて、その時の様子を思い浮かべた。
「そうだね・・・ロザリアとても綺麗だった。幸せそうだったよ」
「羨ましかったりしませんか〜?」
「・・・・・そりゃ・・・そう思わなくもないけれど・・・・私はまだそういうのは考えられないよ」
『でも!!』
二人が同時にネルの顔を覗き込み、彼女はビックリしてしまう。
「いつかは、好きな方のもとへ嫁いで行ってしまわれるんでしょ?」
「・・・・はぁ・・? ・・・・・・んまぁ・・・・・機会があれば・・・・」かなり困った様子のネル。
「理想の殿方のタイプとか、どんなですか〜?」
「・・・・なんでそんなこと聞くんだい」
『私たち、ネル様の恋愛のお手伝いがしたいんです!!』
見事にハモり、ネルは呆気にとられた。そして、頭を押さえる。
「・・・・・あのね、アンタ達・・・・・・」
「ご迷惑ですか〜・・・?」
「迷惑とか、そういうんじゃなくて・・・・・・」
とは言っても、彼女達も悪気があるわけじゃない。
自分のことを考えてくれているのだ。それはわかる。わかるんだけど。
「・・・・・気持ちは嬉しいよ。ものすごくね。・・・でも、こういうのはあくまでも私の問題だし、アンタたちを煩わせることはないよ。そうだろ?」
二人はうつむいてしまう。こう言われたら、言い返せない。
ああ、ここで野望・・・もとい、作戦はついえてしまうのか・・・・・?

「おい」
 そんな時だった。呼ばれてネルは顔をしかめてそちらを向いた。
そこには、停戦以来何かとアーリグリフの使者としてシランドをよく訪れていた、若き漆黒団長アルベル・ノックスの姿。
「・・・・人を呼ぶときに、おいはないだろ?」
「名前呼ぶほどの用じゃねぇよ。国王の所へ案内しろ」
「アンタねぇ! 何回説明したら覚えるのさ! ガキじゃあるまいし、一人で行けばいいだろ!
公使なんだから無理にアタシを介さなくても、陛下はとがめたりしないよ」
「うるせぇ女だな・・・・・いいから案内しろ」
「大馬鹿!!」
怒ったようにツカツカ歩き始めるネルと、それについていくアルベルと。彼らを見送る二人の少女。
「・・・・・・・・・・やっぱりネル様、変わったわよねぇ」
「あんなに叫ぶネル様、見たことないです〜」
「・・・・・・ってことは・・・?」
「もしかしたら・・・・・・です〜」
二人は顔を見合わせて笑いあった。何かを企む、邪悪な笑顔を浮かべて。


 厄介な男の世話から解放され、私用を済ませたネルは自室に戻ってきた。
すると、何故かさっきの厄介な男がさも当然のように椅子に座って、くつろいでいるではないか。
相当意外な光景に、ネルはしばらくツッコむのも忘れた。
「・・・・何、してんの・・・・・アンタ・・・・・」搾り出すように、ようやく言葉を発したネル。
「あ? 何って、客をもてなすのは当然じゃねぇのか」
「・・・・・・・なんで、アタシの部屋でくつろいでんのさ、アンタ・・・・・」
言われて、アルベルは周りをキョロキョロ見渡した。
「ここお前の部屋なのか」
「何をぬけぬけと」
「知らねぇよ。俺は案内されたからここにきただけだ」
「案内?」眉をひそめるネル。
「ああ。女が二人。どっかで見たような気がしなくもなかったな」
二人・・・・・その響きにネルは少し心当たる。
まさか・・・・・・・・あの二人では・・・・・・
言い知れぬ怒りがふつふつとこみ上げてくる。大体、ロザリアの結婚が決まったときも、それに便乗してネルのことを、あることないこといいふらしたのが、彼女達だ。
なんでこんなマネをしたのか・・・・・・なんとなく、予想がついてしまった。ゆえに。
「・・・わかった。とにかくいいから、こっから出ていきな。ちゃんとした客室に案内するから」
「・・・・・・面倒くせぇな」
「何が面倒なのさ! いいから立ちな!」
「別にここでも俺は構わないぞ」
「アタシが構うんだよ! アンタみたいなのがいたら、ちっとも落ち着きやしない」
「わがまま女だな」
「ここはアタシの部屋だ!!」
だめだ。らちがあかない。どうも、向こうは動くつもりはないようだ。
全く・・・・あいつら、後で覚えておいで・・・・・・・
ネルは、背をむけて部屋から立ち去ろうとした。
「どこへいく」
「ちょいと用事。・・・・アンタ、人の部屋の中勝手にいじるんじゃないよ」
「いじられると困るようなモンがあんのかよ」
「やかましいっ!」
   バタンッ
荒々しくドアをしめ、ネルは早足で歩き始めた。
あの二人を探して。

 勿論、当の二人もこうなることは予測していただろう。
怒りをあらわにしてやってくるネルを、なだめにかかる。
「落ち着いてネル様、ほら座って座って」
「アンタ達、一体何のつもりだい? 事の次第によっては、アンタ達といえどタダじゃおかないよ・・・・」
「あ〜・・・・え〜と〜・・・・・・」
「聞いてください、ネル様」
ネルはとりあえず近くにあった椅子に腰掛ける。
「私たちは、ネル様に幸せになってもらいたいんです!」
「それと、あの男を人の部屋に引っ張り込むのと、どういう関係があるんだい?」
「それはもちろん、同じ部屋で時を過ごせば何か芽生えることもあるかと・・・・・」
「殺意なら芽生えそうだけどね・・・・・」
「ああ〜、落ち着いてくださいです〜」
「くだらないことしてるヒマがあったら、ちゃんと働いて欲しいもんだね」
ため息をつくネル。
わかっているのだ。決して、彼女達に悪気は・・・・あったかもしれないが、少なくとも自分のことを考えてくれているからこその行動なのだと。
しかし・・・・・・物事には順序というものがある。
「・・・・まぁいいよ、もう・・・・。今度から、こんなフザけたマネすんじゃないよ二人とも」
ギッと睨むと、二人も萎縮してしまった。
「・・・・すみません」
「ごめんなさ〜い・・・・」

「おい」
 まただ。ネルは声のした方をみた。すぐ向こうにアルベルの姿。
「だから、人を呼ぶ時においって・・・・」
「名前を呼ぶほどの用じゃねぇよ。俺はもう国に帰る。・・・寂しいからって泣くんじゃねぇぞ」
「誰がっ!!! いいからさっさと国に帰んな! もう二度と来なくていいよ!!」
「フン」
背を向け、歩き出すアルベル。それを見送る3人の女性。
「・・・ネル様、やっぱり・・・」
「何言い出すんだい! あんなヤツ、全くの無関係! 赤の他人! ・・・・わかったね?」
ギロリと睨むネルに、二人は今度こそ危険を感じた。
『は、はいっ! すみませ〜ん!!』
あわてて逃げ出す二人を見送り、ネルはまたため息をついた。
わかってはいるんだが・・・・・どうもおせっかい過ぎるのだ、あの二人は。



 ネルは再び自室に戻った。今度こそ、もうあの厄介な男はいない。安息が戻ってきた。
ドアを開ける。やはり誰もいない。
少しだけ、一抹の寂しさを感じる。ほんの、少しだけ。
・・・何考えてるんだいアタシは・・・・・・彼女は頭を振った。
部屋をいじられた形跡はないようで、ホッとするネル。ただ、机の上に紙切れを見つける。

『また来る』

しばらく、彼女はジッとそれを見つめていた。
「・・・・・馬鹿なんだから」
こいつも、あの二人も、そして自分も。
ネルは薄く笑った。
今度来たら、茶くらい入れてやるか・・・・そんなことを考えて。





END





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