Snow Drop

 

「すみません〜、生憎とお部屋の方が二つしか空いていないんですよ・・・・・それで良ければ・・・・」
 アーリグリフ城下町での出来事。宿に泊まろうとしたはいいが、どうやら客が多いらしく部屋が空いていないらしい。
だが他に宿屋もないので、マリアはしぶしぶ了承せざるを得なかった。
そして、考える。さて、どうしようかと。
話によれば、空いている部屋はどちらも2ベッドの二人部屋。しかし、一行は総勢6人。
せめてもう一部屋あれば・・・・・・考えても仕方ない。
宿屋に集まってきた一行に、マリアはそのことを告げた。

「マジかよ、おい」
「でも空いてないんなら仕方ないよな」
「・・・・寝れるならなんでもいい」
「そりゃアンタはそうだろうね」
「何でもいいから早く入ろうぜ〜、寒ィじゃんよ〜」

仲間の意見は様々。マリアは溜息をつく。
「・・・・とりあえず、男と女で二部屋に分かれるのが妥当ってところかしらね・・・・・」
「そうだね」
「・・・・って、おい」
クリフは一行を見渡す。フェイト、ネル、アルベル、ロジャー、マリア、そして自分。
男:女比率、4:2。
「一部屋に4人押し込もうってのか?」
「仕方ないじゃないの。一緒に寝るわけにもいかないでしょ?」
「そりゃそうだけどよ・・・・・・」
「しょうがねぇなぁ、んじゃオイラが一つ提案するぜ」
ロジャーがズイッと進み出た。
「フェイトの兄ちゃん達はやっぱメラまずいけど、その点オイラはまだ子供だし、問題ねぇじゃん!! だからオイラがお姉さま達と〜・・・・・・・・・ぐはっ!!」
そこまで言った時点で、口上は中断させられた。
男性陣から一斉にツッコミ(どつき)が入ったから。
「そんな理論は認められないな、ロジャー・・・・」珍しく、フェイトがキツイ口調。
「だ、だったら! どうすんだよ!! 狭い部屋に野郎4人でひしめきあうっていうのかよ!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
そんなの、誰も望んでなんかいない。ロジャーの理論もわかる。わかるのだが・・・・・
「・・・・・俺としちゃ、4人でもお前抜きの3人でも大して変わらねぇよ」頭を抱えるクリフ。
「それは言える」とフェイト。
「でも、どうしようもないじゃないか」とネル。
フェイトは考えた。
「・・・・・・・・・・クリフ」
「んあ?」
「外で寝てくれないか」
「何ぬかしやがる」
当然の反応だ。
「んじゃアルベル・・・」
「殺すぞ阿呆」
「ロジャー・・・・」
「フェイトの兄ちゃんがそんなヤツだとは思わなかったぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・うーん・・・・」
再び、考え込むフェイト。
「・・・・テメェが出ようって意志はねぇわけか・・・」とアルベル。
「寒いじゃないか」
フェイトはキッパリと言い切った。

「仕方ないわねぇ」
 先ほどからネルと何やら相談していたマリアが話に割って入る。
「流石にこの町で外で寝てもらうのは自殺行為だし、確かに一部屋4人じゃ狭いし・・・・・
今回だけ特別よ。誰か一人だけ、こっちの部屋に入れてあげる」
『えっ!!!!?』
思わず男性陣がマリアを見やる。
「ネルとも相談したから。一晩だけだしね」と、ウィンクするマリア。
男性陣は顔を見合わせた。
こんな機会は滅多にない・・・・・健全な男である以上、男ばっかりで凍える夜を過ごすよりは、女性と過ごした方がいいに決まってる。深い意味はなくとも。
例えその「女性」がクリムゾンブレイドやら銃所持の特殊な能力の人間でも!
「・・・・一応聞くが・・・・・」
クリフが男性陣をゆっくりと見やる。
「マリアの提案を辞退する・・・・・ってなマジメ野郎はいるか?」
彼らはそれぞれに相手の様子を伺いながらも、申し出る者はいない。
それもそうだろう。
元々二人部屋に三人押し込められるのが確定しているのだから、ちゃんとベッドで寝ようと思ったら、誰か二人は共同ベッド。

野郎二人で凍える夜を暖めあう共同ベッド。

そんなの、誰だって嫌に決まっている・・・・・・
「・・・・・いねぇよな、やっぱ」
クリフは溜息をついた。
「どうするんだよ」
「・・・・しゃあねぇ・・・・・・・拳で語り合うか」
と、クリフは指を鳴らし始めた。
勝った者が栄冠を掴む、生き残りサバイバル・・・・・・
「・・・面白い」
「オイラ、メラ不利じゃんかよ〜」
「物騒な提案だな・・・・」
三人は呟きながら、各々の武器を手に取った。
「おい。ちょっと待て」とクリフ。「拳でっつったろ? 何、刃物持ち出してんだよテメェら」
「そんな、クリフに圧倒的有利な条件は呑めないな」
やおら、クリフを見つめて向きなおるフェイト。そして、クリフは気づく。
後の二人もこちらを見ている・・・・・・
「・・・こういったバトルでのセオリーは、わかってるかいロジャー?」フェイトがロジャーをチラリと見やる。
「もちろん!! 一人を狙い撃ちだろ?」
「わかってるんなら、改まる必要はないな」
「・・・・おい。お前ら・・・・」
クリフは後ずさった。相手は、揃って刃物を持っている。
いや、彼だってその身体能力は常人並ではないにしろ、かなりの手練れが相手にいることは間違いないわけで。
流石に三人同時は・・・・・・・
「僕の幸せのために・・・・・死んでくれ、クリフ」


「あ、一人脱落したみたいね」
 遠巻きに、男共の仁義なき戦いを見物している女性達。
「しかし・・・・男ってのは馬鹿だね」呆れて呟くネル。
「全くだわ」マリアも同意。
「・・・・誰だといい?」
「・・・・・・・・・・・そうねぇ・・・・フェイトなら一番危険度が低そうよね」
「同感」


「さて・・・・・」
 フェイトは、手にした剣を握りしめて考えた。一人一人潰して行くにしても、最終的には一対一になる。
その時に、戦いやすい相手を残しておかないといけない。
アルベルとロジャー・・・・どちらかは明白だった。
手を組むぞ、ロジャー・・・・・!! 彼はそう発言しようとしたが・・・・・・
「さっさと手を引け、クソガキが」
「うるせぇ、このバカチン!! 子供だからってなめんなよ!!」
すでに向こうの二人は臨戦態勢だ! フェイトはさらに考えた。この際、潰しあってもらうか・・・・?
とはいっても、あの二人では勝敗は決まっているようなものだ。
そしてその結果はハッキリ言ってフェイトの望むところではない。
ならば・・・・・
「ロジャー!! 加勢するぞ!!」
フェイトはロジャーについた。以前、三人がかりでアルベルを押さえたことはあったが、二人ではどうか・・・・
「・・・兄ちゃん・・。なんか悪巧みのニオイがプンプンするじゃん・・」ロジャーはフェイトの露骨な態度に不審を抱いたようだ。
「気のせいだ!!!」
当面の敵はアルベルなのだ。ロジャーは後回し。
「フン、上等だ。この前の借りは返させてもらうぜ、フェイト・・・・」
「できるのか? 行くぞ、ロジャー!」
「お、おう!!」
殺気が辺りを覆いつくす。その直後。


   どがっ


フェイトの目の前で予想外の事態が発生した。
いきなり、アルベルが吹っ飛んだ。「何か」が彼を直撃して上空を旋回し、すっぽりと彼女の手に収まる。
「あ、悪い。当たった」
悪びれもせずに呟くネル。
・・・・・黒鷹旋を放ったらしい・・・・・
フェイトもロジャーもしばし呆然としていた。
(・・・狙ってた・・・・・当たったとか言って、絶対狙ってた・・・・・)
(お姉さま、すっげぇワザとらしいっす・・・・・・)
「・・・ネル・・・?」マリアが隣を見やって呟いた。
「・・・・・・・あの男だけはどうしてもヤだったもんでね・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だからと言って、死角から近距離で黒鷹旋はどうかと・・・・・・
当のアルベルは倒れ伏したまま「・・・あの女・・・ぜってー殺す・・・・・・・」とブツブツ言ってたとか言わないとか・・・・・・

 改めて、フェイトは状況把握に努める。男同士の虚しい争い勃発から十数分。
クリフ・フィッターは三人がかりで潰しにかかるという常套手段で滅殺。今は苦虫な表情でこちらを観戦している。
アルベル・ノックスは観客(つーか、ネル)の手によって沈められる。まだ向こうで倒れたまま何やら呟いているようだが、起き上がる元気はないらしい。
そうだ。あと二人なんだ・・・・・・!!
フェイトはバッと隣を睨みつけた。無論、相手・・・ロジャーもこちらを睨んでいる。
「・・・・・ロジャー・・・・・・悪いことは言わないよ・・・棄権しないか?」
「それはこっちのセリフじゃんかよ。オイラ、こう見えても強いんだぜ?」
「・・・・・・・仕方ないな・・・」
おそらく、ちょと本気を出せば勝てる相手だろう。強いのは認めるが、それはフェイトもよく知っている強さだ。対抗策を講じるのはたやすい。
まずは突っ込んでくるだろうから、それをよけてちょっと挑発してやればノッて来るに違いない。
そうすれば、スキだって生まれる。取り押さえるのも可能だ。
彼は単純な性格だ。絶対上手くいく。フェイトはほくそえむ。
可哀相に、男三人で仲良く寒い夜を過ごすといいさ・・・・・僕はマリアやネルさんと楽しく過ごさせてもら・・・・・
「うわぁぁぁぁぁっ!!! なんでアミーナちゃんがいるんだっ!!!?」
「何っ!!!??」
フェイトは振り向いた。視線が、マリアとネルを捉える。アミーナだって?
そんなはずはない、だってアミーナはもう・・・・・
ハッ、まさか、ソフィアがいるとでも言うのか・・・・・・・!!?

 気づいたら、フェイトは空を仰いでいた。薄暗い灰色の空。上空から舞い散る雪を、静かに眺める。
・・・なんで目の前に空があるんだ? アミーナは? ソフィアは?
「はっはっはっはーーー!!! やったぜ!!
マジで引っ掛かるなんて、フェイトの兄ちゃん実は結構お・バ・カ・さ・ん? ぎゃーーはっはっはっは!!!!」
何が起こったのか、フェイトは理解できなかった。
クリフの力ない声が聞こえる。
「・・・・・・一番ヤな組み合わせ決定かよ」
「おめでとう、ロジャー」
「ああー、お姉さまーーーー!! オイラはやりましたーーーー!!」
「こら、なつくんじゃないよ!」
「・・・・クソ虫が・・・・・」
もしかして・・・・フェイトは考えた。
後ろを振り向いたスキに、ガツンとやられたらしい・・・・・
クソ!! なんで、あんな見え透いたウソに引っ掛かったりしたんだ!!
ロジャーがあんな知能犯だとは・・・。しかしどんなに悔やんでも後の祭り。
かくしてロジャーが幸せへの階段を登る権利を得られたのであった。


 この日、結局フェイト達は二人部屋に三人押し込められる措置となったのだが、
「共同ベッドなんて冗談じゃねぇ! ベッド権を賭けて、勝負だ!!」
とのクリフの提案により、一番負けを喫したフェイトが部屋の片隅で毛布一枚で凍える夜を過ごしたという。

しかしながら・・・・・・

憧れのネルお姉さまやマリア姉ちゃんと一緒だ、とちょっとばかり暴走し過ぎてしまったロジャーもまた、
「部屋にいられるだけありがたいと思いなさいね」
と、部屋の片隅で簀巻きにされて凍える夜を過ごすハメになったとか・・・・・・





END





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