An Outrageous Demand

 

 今彼は、彼なりに懸命に努力していた。
なんといっても、旅を続けるには必要不可欠なものが、不足しているのだ。
それを補うためには、これしかないのだ。
地道にコツコツなんて、すでにコツコツやってきた者には虚言にしか過ぎない。
そう。
彼はもう、切羽詰っていた。


「おう、ソフィア」
 やたらと光輝くネオンが眩しい街、ジェミティ市。
散歩していたソフィアに、クリフが近づいた。
「何ですか、クリフさん」
「フェイト見なかったか?」
「フェイト? ・・・・・そういえば、どこにいるんでしょうね・・・・」
「お前も知らねぇか・・・・・どこに消えちまったんだろうな」
二人は揃って、フェイトを探すべく歩き始めた。



「行けーーーーーーーっ!! そこだーーーーーっ!! ジャンプだ、ジャンプ!!
ああーーーー、もう! 何コケてんだよっ!!!」
 とある場所で紙切れを握り締めて絶叫するフェイトを、二人が見つけるのにさほど時間はかからなかった。
「おい、フェイト」
「ああ・・・・・・・・・・またダメだった・・・・・くそっ、次こそは!!」
「フェイト!!」

  がつんっ

後ろ頭をグーで殴られ、ようやくフェイトは我に返って後ろを見やった。
そこには、しかめっ面の大男クリフの姿。
「・・・何やってんだ、テメェは」
そこは、ジェミティ市のアトラクションのひとつ、バーニィレース会場。
フェイトの足元に、外れ券がヒラヒラと舞い落ちた。


「わーってんのか!? 今は、ギャンブルなんかしてる場合じゃねぇだろうが」
 仲間全員が呼び集められ、フェイト追及タイム。フェイトはもの言いたげにクリフを見ていた。
「ギャンブルなんて、お金の無駄遣いでしょ」とマリア。
「フェイト、そんなにギャンブル好きだったの・・・・?」とソフィア。
「そんなんじゃ、ロクな大人にならないぜー」とロジャー。
「賭け事はほどほどにね、フェイトちゃん」とスフレ。
口々に非難(?)する仲間たちの顔を見やって、フェイトは口を開いた。
「しょうがないだろ・・・・・・お金がなかったんだ」
『はぁ!?』
皆が口を揃えてつっこむ。
金がないのならなおさら、ギャンブルなど控えるべきではないのか。
「レースで勝って賞品を売れば、少しは足しになると思ってね・・・・」
「ちょっと・・・・お金の管理はアナタの担当でしょ・・・・・?」
マリアが睨んでくる。しかし、フェイトも負けじと睨み返す。
「ああ、そうさ。その通りだよ。今までもできるだけ、支出は最小限になるように工面してきたつもりだし、決して無駄遣いなんかしなかったさ」
「なら、なんで・・・・!」
「マリア」
フェイトがゆっくりとマリアに近づく。
「君・・・・・この前、大量に服買ってたよね・・・」
「!!」
ギクッとするマリア。皆の注目が彼女に集まる。
「しかも、いつのまにやらパーティの財布からお金を抜き取ってね・・・・・」
「な、あ、そ、それは・・・・・その・・・・・」
「・・・・しかし、それだけじゃない」
今度はフェイトはソフィアを見た。
「・・・・・・・ソフィア・・・・この前見つけたあの大量のネコグッズ、君が買ったんだろ」
「・・・・・! あ・・・それは・・・・・・」
「そしてスフレ」
「ハイッ!!」
「あのステージ用衣装だと思われる大量の衣服は、君かな?」
「・・・・・・・・・・あ、バレてた・・・・?」
「そしてロジャー」
「ギクッ!」
「なんであんなにたくさん、工具なんか買いだめしたんだよ」
「あ〜・・・・・いや〜・・・・・出来心で・・・・」
フゥ、とフェイトはため息をつく。
「お前らなぁ・・・・・」
呆れて呟くクリフ。しかし、フェイトはクリフをも睨んだ。
「クリフ。・・・・バレてないと思ってるのかい」
「・・・・何の話だよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ええと・・・・ペターニの路地裏の、キャバレー『レディ・・・・』」
「わーーーーーーーーー!!!! ストップ!! それ以上言うな!!!!」
「それからアーリグリフのクラブ『ピンクム・・・・』」
「やめてくれーーーーーーっ!!! すまんっっ!!!! ほんのお遊びのつもりで・・・・・!!」
土下座を始めるクリフに、勝ち誇った表情のフェイト。
「・・・・最年長がこれなんだから、話にならないよな」
皆の嫌な視線がフィッター氏に注がれる。
「・・・・そんなわけで、ウチの支出は僕が思ってる以上に激しいんだよ。いいかい?」
皆、無言でうなずかざるをえなかった。
「わかったら、みんなも協力してくれよ。レースでひとやま当てて、ロマネコンチを獲得すれば、財布も一気に潤うからね」
「・・・・仕方ないわね・・・」ため息をつくマリア。
「ごめんね、フェイト・・・・・」とソフィア。
「頑張るからね♪」とスフレ。
「頑張ってどうにかできるってもんでもねぇじゃんかよ」とロジャー。
「何ですってぇ!」
「だって本当じゃんか!」
言い合いを始めるお子様二人を見て、皆やれやれと肩をすくめた。

「あ、フェイトさーん!」
 別の声に呼ばれて、フェイトは振り向いた。
そこには、ジェミティの職員と思わしき男性が荷台に様々な箱を載せてやってきていた。
途端にフェイトの顔色が変わった。
「あ、ち、ちょっと待っ・・・・・・」
「こちら、この前ご注文いただいたゲームですけど、お届けする場所を詳しく聞いていなかったもんで・・・・・どうしましょう?」
「・・・・・・あ・・・」
フェイトは、背中に注がれる痛い程の視線を感じた。
かなりの、殺気のこもった視線の数々を。



 それから数日間、ボロボロの様相で一人バーニィレースに興じる青髪の青年の姿が見受けられたという。
彼いわく、ゲームにかける金は無駄遣いなんかではないらしい。
誰にも認められなかったが。





END





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