Existence Nearer Than Anything

 

 惑星ストリームから帰還したフェイト達は、エリクールへ向かうためディプロに搭乗して時を過ごしていた。
マリアらクォークの面々は勿論、フェイト達もそれぞれ個室を貸してもらい、思い思いにくつろいでいた。
そんな時の出来事。


「・・・何してるんですか?」
 フェイトは思わず問うてしまった。ギクッと身を震わせる3人。
フェイトには、彼らが壁ぎわから向こうの様子をコッソリ覗き見しているように見えた。
「シーッ! 静かに、フェイトくん」
「お前には関係ないからあっち行けよ」
「もう、そんなこと言わないの」
彼らはクォークの若きメンバー。上から覗いてる順に、スティング、リーベル、マリエッタ。
何を見ているのかとフェイトもひょいと向こうを見やった。

「・・・確かにそうですね」
「だろ? まぁあいつらだって、そこんとこわかっちゃいるとは思うんだがよ・・・・・」
「でもクリフ、それはある意味おおきなお世話かと思いますが」
「・・・・・・・・・まぁ・・・・・そりゃ・・・・子供じゃねぇしなぁ・・・」
「もしもの場合、責任を取らなければならなくなるのはアナタだと思いますね」
「おいおい・・・・・脅かすなよミラージュ」
「本当のことですから。勿論、それくらいの覚悟を持って行っているものと思ってましたけど」
「ははは・・・・手厳しい意見だな」
「クリフも相変わらずですね・・・・・」

『・・・・・・・・・・・』
 4人の若者はその光景を食い入るように見つめる。
クォーク一のベストカップル(周囲の意見)クリフ・フィッターとミラージュ・コーストが椅子に座って、何か企んでいるような会話を行っていた。
彼らはいったん二人から離れて、話し合いを始めた。
「・・・・どう思う」
「やっぱり・・・・・・・アレだろ」
「でも、クリフさんは否定してるけど・・・・・・」
「・・・・・・・」フェイトは何となく何の話なのかわからなくもなかったが、言及はしなかった。
「どう思う、君は」
スティングがフェイトを振り返って問うてきた。フェイトはとりあえずとぼけてみる。
「・・・何の話ですか?」
「クリフさんとミラージュさんの関係よ」マリエッタが代わりに答えた。
フェイトは考えた。やっぱり、彼らの関係が気になるのは自分だけではなかったようだ。
「もう長い付き合いになるらしいけど、浮いた話とかなかなか聞かなくて。本当にそうなのかそうじゃないのか、ハッキリさせたいな〜・・・って」
「君も乗らないかい?」
スティングの申し出に、フェイトは黙ってその手を握り締める。
「是非」
「・・・・好きだな、君も」
「・・・・・・・・で? どうすんだよ」何故かムスッとしているリーベル。
「どうしようか・・・・・あの二人が相手だし、迂闊なことは出来ないが・・・・」
「俺に考えがあるが、どうだ?」
その声はリーベルでもスティングでもフェイトでもなかった。
驚いて彼らは声のした方を見やった。
そこにいたのは、クォークの古株、クリフにとっては頼れる同僚(?)ランカーの姿。
「わっ! ビックリした・・・・・」
「クリフとミラージュをくっつけようってんだろ? そりゃもう協力するぜ。当然だな」
「・・・・くっつけようっていうか・・・・・」
「いいから、準備しろ。リーベルは右側通路、マリエッタはここで待機、スティングとフェイト君は俺と来てくれ。以上、解散!」
もうすでに作戦決行されているようだった。仕方なし、彼らは内容すら知らない作戦開始と相成った。


 そんな思惑など露知らず。クリフとミラージュはずっとロビーで何やら話し込んでいた。
「・・・やっぱり、ちょっと過激というか・・・・いきなり過ぎだと思いますけど・・・」
「いいんだよ。それくらいしねぇと進展しねぇよ。・・・・ここまで気を回してやってんだから、感謝してもらいてぇくらいだな」
「・・・・・・・それは、微妙なところですね」
ミラージュはため息をついた。
「それよりもクリフ・・・」
「あの! すみませんお話中のところ!」
二人が声のした方を見やる。そこには、マリエッタの姿。
「どうしたんだ、マリエッタ」
「クリフさん、ミラージュさん、リーダーが呼んでます。部屋まで来て欲しいとのことです」
「・・・・・? ああ、わかった」
やや不審に思うクリフ。マリアが部屋に呼びつけるのは、結構珍しい。
しかも、自分とミラージュとなんて。
「行きましょう、クリフ」
「ああ・・・・・」
腑に落ちないものの、クリフはミラージュと共に一階へと向かった。

 右側の階段に向かった二人は、そこでリーベルと会う。
彼は何故だか階段をふさぐように立っていた。
「クリフさん、ミラージュさん、お疲れ様です」
「おう、リーベル。ちょいと下行きてぇんだ。通してくれるか」
「あ、今掃除中なんですよ。すみませんけど、向こうの階段からお願いします」
「ああ、わかった」
何の疑いもなく二人は左側の階段へ。それを確認し、リーベルはほくそえむ。
「リーベル」
少女が見計らったようにリーベルに近づく。マリエッタだ。
「とりあえず、作戦成功」
「あとは、スティング次第ね」
「ま、あいつは大丈夫だろ。なんたって、『狙撃のスティング』だしな」

 クリフとミラージュは左側階段から一階へと向かった。
こちら側の通路なら、マリアの部屋へは一直線。
「何の用だろうな、マリアのやつ・・・」
「まぁクリフったら、リーダーに『やつ』だなんて」ミラージュは笑った。
「いいじゃねぇか」
左右の通路は途中で合流する形になっている。クリフ達は左側の通路にいるが・・・・・
その向かい・・・右側通路から顔を出す男。狙撃のスティング。
(・・・ランカーさんも、えげつないことを考えるよな・・・・・)
「マリアも、かなりリーダーの風格が出てきたよな」
「あら、前からありましたよ?」
「そうか?」
「ええ」
その時。事件は起こった。
いきなり、フッと力が抜けたようにミラージュが崩れ落ちた。
一瞬、何が起こったのかクリフは理解できなかった。
「ミラージュ!?」
あわてて、倒れたミラージュを抱き起こす。しかし、返事はない。
「おい! どうしたんだよ! ・・・・・・・」
とにかくも、このままにしておくわけにもいかない。
丁度すぐ目の前、マリアの部屋の隣がミラージュの部屋だ。彼女を抱きかかえ、ミラージュの部屋へと向かうクリフ。
実のところ彼もあんまり入ったことがない部屋。理路整然とした、彼女らしい部屋だ。
ミラージュをベッドに寝かせ、考え込むクリフ。一体、何が起こったのかもわからない。
どうなっちまったんだ・・・・ほっとくのも気が引けるが、とりあえずマリアに報告しておこう・・・・・
クリフは部屋から出ようとした。
だが。
この時すでにランカーの言う作戦は決行されていた。

「・・・・・扉が開かねぇぞ、おい・・」
 当然ながら、ディプロ内の扉は全てオート。人が近づけば勝手に開く。しかし、ミラージュの部屋の扉はうんともすんとも動かない。
入ってきたときはなんともなかったのに。
「・・・・・まさか、システムがイカれちまったのか・・・?」
クリフは通信機を取り出して連絡を取ろうとするが・・・・・ダメだ。電波が何故か遮断されている。
思わず通信機を投げつけてしまう。
「おい! 誰かいねぇか!」
扉をドンドンと叩く。彼の怪力から発せられる音は、隣の部屋にも大きく響いた。

「・・・・? 何の音?」
 マリアが思わずキョロキョロと辺りを見やる。
「僕が見てこようか?」
ああ、マリアの部屋にしっかりと居座っていたフェイトが、おもむろに立ち上がる。
何も知らないふうを装って、ミラージュの部屋の扉に近づく。
「どうしたんですか?」
「・・フェイトか・・・・・すまねぇが、マリアかランカーか・・・・とにかくクォークの誰かを呼んでもらえねぇか」
「・・・・・・ここ、確かミラージュさんの部屋じゃないのか? なんでクリフがいるんだ?」
「理由があんだよ! 頼むから、誰か呼んで・・・・・」
「どうしたんだ、フェイト君」
そこへ、当のランカーが姿を現した。後ろにはリーベルとスティングも。
「ああ、ランカーさん」
「ランカー!? 丁度いい! システムダウンしちまったみてぇなんだ、ちょいと見てき・・・・・」
「おや? クリフの旦那の声じゃないですか?」かなり白々しく言うランカー。
「理由は後から話す! 早くしてくれ!!」
「・・・いや、それがねぇ・・・・重力ワープの影響か、あちこちでトラブってましてねぇ・・・・少しの間、そのままで待っててもらえませんかねぇ」
「重力ワープの影響だと・・・? んなワケねぇだろ! ミラージュが大変なんだよ!」
「ミラージュ女史と二人きりですか。いやはや、羨ましい」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!」
そこまで叫んでクリフはふと考えた。もしかして・・・・・・・
俺は、ミラージュが大変とは言ったが、この部屋にいるとは言っていない。
もしや、知っている・・・・?
「・・・・・ランカー・・・・・・・もしやテメェ・・・・」
抑揚のない声に、扉の外の彼らは互いに顔を見合わせた。
「ああ、意外と早くバレましたなぁ」
もはや、否定すらしないすがすがしさ。クリフは腹が立ってきた。
「ランカー!!! テメェ、後で覚えてろよ!!」
「旦那のためを思ってのことですよ・・・・・ごゆっくり」
彼らはうなずきあって、扉から立ち去る。
「・・・ランカーさん」スティングが呟く。
「ん?」
「・・・・・ところで、これは一体何なんですか?」
スティングは先ほど自分が使った「エモノ」を取り出した。細長い棒状の武器。
「ああ、それはだな、昔狩猟なんかで使われた『吹き矢』って武器でな・・・・・・」
(・・・昔の地球で使われてた狩猟道具だったっけ・・・・なんでそんなの知ってるんだ?)
フェイトは軽い疑問を抱きながら、彼の役割を果たすためマリアの部屋へと戻った。
マリアに「なんでもなかったよ」と告げるため。


 一方、クリフ・フィッター。
ランカーにハメられたとようやく理解する(実際にはもうあと4人いるが)。
実際、何かとミラージュのことをほのめかしてきたのが他ならぬ彼だったから。
彼女は頼れるパートナーだ。それ以上でもそれ以下でも・・・・・・・ないのだろうか?
 もうこうなったら騒いでも仕方ないと、クリフはハラをくくって近くにあった椅子に座る。
いつの間にやらミラージュは寝息を立てている。ホッとする。
(・・・・・・・・他人のことばっか構ってないで自分をどうにかしろ・・・・とでも言いたいのかよ・・・・)
溜息をつく。クリフ・フィッター、36歳独身。
周囲が心配するのもわからなくもないが・・・・・・自分は自分だ。それなりには考えているつもりではある。
だがそれを他人に強要されるのは好まない。
(・・・そういやぁ・・・・・俺もやっちまってるか・・・・)
反省。他人のことはいらぬ世話焼いても、自分のことは自分で解決したい・・・・それではあまりにも勝手な話だ。
ミラージュを見やる。ずっと近くにいて、何かと世話を焼いてくれる信頼おけるパートナー。
それに、何らかの形で応えなければならないとは思っている。
思っているが・・・・・・
「・・・ん・・・・・・・」
ミラージュが目を覚ましたようだ。ゆっくりと体を起こし、周りを見渡す。
どうやら、自分の部屋。
「・・・・・クリフ?」
「目ェ覚めたか」
「私、どうして私の部屋にいるんですか? 記憶が飛んでいて・・・・・」
「気にすんなよ」
「でも・・・・・」
「それより、体は平気か?」
「? ええ。なんともありません」
「そっか」
彼の様子がなんだかおかしいとは思いながら、ミラージュはベッドから起き出した。
「ああ、今こっから出られねぇぜ。扉が開かねぇ」
「え?」
「『重力ワープの影響であちこちトラブってる』んだとよ」
なんだかムスッとしている。ミラージュは首をかしげる。
「どうしたんですか、クリフ?」
「なんでもねぇよ」
「・・・・でも・・・・・」
「なんでもねぇって」
「・・・それなら、これを忘れてるってことはないですよね」
ミラージュは扉の近くの壁を少しいじる。あっ、とクリフがそちらを見た。
「こんなときのために、手動で開閉できる装置があるんじゃないんですか?」
ミラージュは扉を開けた。
「・・・・もっとも、滅多に使わないから皆さん忘れてるでしょうね・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
失態だ。クリフは頭を抱える。
ミラージュのことで頭がいっぱいで、そんな装置のことなどすっかり忘れていた。
「行きましょう、リーダーが呼んでたでしょう」
「・・・・・・・・・」
もはや、それすらも本当かどうか疑わしいところだ。頭を抱えたまま、クリフは立ち上がる。
「・・・ミラージュ」
「はい?」
「・・・・・・・・・・・・・・いつも世話ばっかりかけるな」
「・・・? いいえ・・・・・」
「行こうぜ」
「はい」
今はこれでいい。いつか、整理のつく時も来るだろう。きっと、それからでも遅くはない。
ただ黙って後ろからついてくる女性の存在を背中で感じながら。










「行くとこまで行っちまうに500フォル!」
「いや、それはないだろ・・・・・キスにとどまるに300フォルだな」
「なんだ、自信ないのかよ」
「結局手が出せずに終わるに600フォル!」
「あ、それありそうだ!!」
「だろー!?」
「意外とオクテだったりしてさー」
「じゃあ俺も何にもできないに500フォルだ!」
「俺も!」
ブリッジでわいわいと騒ぐクォークメンバー達。
「俺は最後までに1000フォル行くぞ!」
「おおー、ランカーさん、男だ!!」
「何の賭けやってんだ?」
「いやぁ、クリフさんがミラージュさんにどこまで迫れるかって・・・・・」
振り向いたメンバーの表情が凍った。
「そうか・・・・・俺が対象か・・・・・」
クリフはゆっくりとブリッジ全体を見渡した。
誰一人として、彼に目を合わせようとする者はいない。
「・・・・ランカー・・・?(笑顔で)」
「あ、旦那、俺・・・いやワタクシ、ちょいと用事を思い出して・・・・・それじゃあ」
「そうか・・・・・・・・ま、ゆっくり用事済ませてこいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





 数分のち、ディプロ内のとある場所で集中的なフラッシュチャリオットが発生したとかしないとか。





END





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