両手いっぱいの宝物
「もうすぐクリスマスよねー!」
あのキャンプから帰ってきて、数ヶ月。季節は巡り、夏から秋、そして冬へと姿を変える。
チラリチラリと雪が舞う、12月。
「そうか~、クリスマスか~」
「みんなで集まってさ、パーティしようよー! みんなでプレゼント持ち寄ってさ!」
「それいいかもしれないね、キャンディ」
教室で女の子達が盛り上がっているのを、はたから見つめる男子達。
「女の子って、好きだよねー。あーいうの」
「でも楽しそうだヌ~。オレも混ぜてもらおうかヌ~」
「女の中に混じってか? オマエも好きだなー」
「ち、違うヌ~! そんなんじゃないヌ~!!」
これはこれで盛り上がっているようだ。
そんな中。
「絶対いねぇって!」
「いるんだっぴーー!!」
大きな声に、クラス一同がそちらに注目する。声の主はセサミとピスタチオだった。
「まだ信じてんのかよ、だせーなぁ」
「いるったらいるんだっぴ!! 去年もおととしも、来てくれたっぴ!」
「いねぇって。ありゃ、親がばけてるんだよ。だってさ、考えてもみろよ。
世界中の子供にプレゼント配るなんて、どう考えてもムリだよ」
「・・・うぐっ・・・・・そ、それでもいるんだっぴ・・・・・」
話の内容から察するに・・・・・サンタクロースの話だろう。
「ピスタチオったら、無邪気ねぇ」ブルーベリーが苦笑する。
「でも仕方ないよね。アタシも小さい頃は本気で信じてたもの」とレモン。
「みんなそうだよね~」アランシアも同意。
「アタシさー、見ちゃったんだよねーパパがこっそりとやってきてプレゼント置いてるのを」とキャンディ。
さらに盛り上がる女の子達を、やはりはたから眺める男子達。
「ピスタチオ、まだまだコドモだよねぇ」冷めた表情のシードル。
「意味深な発言だヌ~」とカベルネ。
「オレんとこには最初っからサンタなんていなかったぞ。サンタなんてうそっぱちだよな」とキルシュ。
「・・・・・キルシュの家庭も大変なんだね・・・・」
「悪いこと聞いてしまったヌ~・・・・」
「!? なんでそんな話になるんだ!?」
ガタッ
椅子の動いた音が響く。
今までただ(机に足を乗せて)座っていたカシスが立ち上がっていた。
「・・・・・・・・・カシス?」
「帰らせてもらうぜ。用事を思い出した」
「って、まだ次授業が・・・・・」
シードルの呟きも聞かず、教室の外へと足を向けるカシス。
彼が出て行った後も、一同はしばらく黙ったままだった。
唯一、
「・・・堂々とサボったね・・・」
シードルがいつものように溜息をついただけだった。
「?」
教室に向かうべく廊下を歩いていたフレイアが、前方から歩いてくる姿に気付いた。
「カシス? すぐ授業始まるわよ」
「用事があるから帰る」
「・・・・・用事・・・・・・・・」
そのまますれ違おうとしたカシスを遮るように立ち塞がる。
「授業より大事な用事なんてあるの?」
「・・・・・・・・・授業がそんなに大切なモンなのかよ」
「・・・・・どうしたの?」
「は?」
真剣な目つきになる。
「なんだかいつものカシスじゃないみたい・・・・・・何かあったの?」
「・・・・・・・・・なんだっていいだろ」
そしてさらに横を通り抜けようとして・・・・・
「でっ!」
後ろから髪を引っ張られた。
「何しやがんだ!」
「なんだっていいんなら、戻りましょうよ」
「どういう理屈だそりゃ」
「これでも一応委員長やってるし、堂々とサボられると私が後から注意されてしまうもの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつもそうだ・・・・彼女はマジメだから。
「・・・・なぁ」
「?」
「オマエ、サンタクロースっていると思うか?」
「・・・・・・・・・は?」
いきなりな質問に、思わず間の抜けた声をあげてしまうフレイア。
そういえば、もうすぐクリスマスだ。
「なんでそんなこと聞くの?」
「いいから答えろよ」
「・・・・・・・・・小さい頃は、いるって思ってたけど・・・・・今は、ね」
「・・・・・・・フン、ま、予想どおりの答えだな」
「何よそれ」
「本当、みんなおめでたいよ。クリスマスだからって浮かれてさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
その時。
授業の開始を告げるチャイムが鳴った。
「あ! いけない! 遅刻しちゃう・・・・」
「じゃ、オレは帰るぜ。ほら、急がないと遅刻するぜ」
「アナタも来・・・・!」
連れて行こうと腕を取ろうとして、逆に手首を掴まれてしまう。
「帰るっつってんだろ。それとも、なんなら一緒にサボるか?」
「もう!」
怒ったようにバッと、掴まれた手を振り解いて、フレイアはカシスに向き直る。
「・・・・また明日な」
「・・・・・・・・・・・マドレーヌ先生にいいつけておくから」
「・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬、ピクリと反応したが、黙って背を向けて再び歩き出すカシス。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
でも。何か深いわけがあるような、そんな気がしていた。
「おおー、フレイアだヌ~! チャイムに遅れるなんて珍しいヌ~」
「先生はまだ来てないよ」
教室に入るなり、カベルネとシードルが出迎えて(?)くれる。
「・・・・・・・ねぇ、カシス何かあったの?」
「お? 出会ったヌ~?」
「うん・・・・・・・・」
「何があったかは知らないけど。いきなり用事を思い出したから帰るってさ。ま、どうせサボリなんだろうけど」
「うん・・・・・・・・」
「フレイアこそどうしたんだヌ~・・・元気ないヌ~・・・」
「うん・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
顔を見合わせるカベルネとシードル。
次の日。
「カシス」
「・・・・・・ご苦労さん」
フレイアは学校の裏手・・・・人気のあまりない小高い丘まで来ていた。
また明日とか言いながら、教室に姿すら現さなかったカシスを探して。
寝そべったまま、彼女の姿を確認して呟くカシス。
「よくわかったな」
「来てるってことだけはレモンに聞いてたから。後は、誰も来ないような場所にいるんだろうと思って」
「・・・・・・・読まれてんなぁ・・・これからは場所変えるかぁ」
「それはいいの」
なんだか彼女は怒っているようにも見えた。
「で? 連れ戻しにきたのか」
フレイアは黙って首を横に振った。
「昨日のこと」
「・・・・・・・・・・」
フレイアは寝そべっているすぐそばに来て座り込んだ。
「なんだ?」
「・・・・・・・・みんなで一緒にクリスマスパーティやらない?」
「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
いきなりな質問に、思わず間の抜けた声をあげてしまうカシス。
「なんでそういう話になったんだ?」
「昨日、みんなの話を聞いて・・・・・・・・・それで・・・・・・
そういうの、やったことないのかなーって、なんとなく思っただけなんだけど・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
寝返りをうって、フレイアに背を向けるカシス。
「・・・・・・・・・俺はいいよ」
「なんで」
「なんでも何もねぇよ」
「きっと楽しいと思うけど・・・・」
「何が楽しいんだよ」
「ほら、みんなで集まってプレゼント交換したりとか、おいしいもの食べたりとか・・・・・」
「・・・・・・・・それって楽しいのかよ」
「楽しいよ」
「・・・・・・・・・・・いや、いい」
「なんで」
「だから、なんでも何もねぇって!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・ちょっと口調がキツかったか・・・・・・フレイアは黙ってしまった。
彼女は何も悪くはない。
ただ・・・・・彼女には何故かしら、心を読まれてしまっているようで。それがなんとなく不愉快で。
逆に心地よくもあった。
だからかもしれない。彼女には、話してみようという気になれたのは。
「・・・・・・・やったことねぇんだよ。そういうのは」
「・・・・ホントにそうなんだ・・・・」
声にはちょっぴり意外なニュアンスがあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・俺の家は」
「・・・・・?」
「オヤジが死んじまって、それからオフクロが働きに出てる。いつも朝早くから夜遅くまで。
クリスマスだとか、そんなの関係ねぇ。そんな浮かれたことできる環境じゃねぇんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・本当・・・どうでもいいんだ、そんなのは・・・・・・(そんなことよりも・・・・・・・本当は・・・・・)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・わかったろ。俺のことはいいから、みんなでパーティでも何でもやればいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それきり、しばらくの間静かになった。
その日は、朝から登校してくる生徒達、みな一様にある話題でもちきりだった。
サンタクロースとクリスマスの話。
ああ、そうか、今日がクリスマスだっけ・・・・・
そして今日が今年最後の登校日。どうせ、あのジイさんの長い話で半日が終わる日だ。
メンドーだし、このままフケてしまおうか。
「カシスーー!!」
後ろから、息せき切って駆けてくる少年が二人。シードルとカベルネ。
「珍しいヌ~! 絶対来ないと思ってたヌ~」
「もう帰ろうかと思ってたとこだったけどな」
「なんだよ、せっかく来たんだから、グラン・ドラジェの長ーいお話を聞いて帰ろうじゃないの」
「それが一番イヤなんだよ」
「まぁまぁそう言わずに」シードルがカシスの右腕を取ると。
「一緒に教室に行くヌ~! 有無は言わせないヌ~!」カベルネが左腕を取って。
「おい・・・何なんだお前ら・・・・・」
普段からつるんでいる彼らだが、こんなに積極的に動くのは珍しい。
こりゃ何か企んでいるな・・・・・? そんなことを考えながらも、連れられるまま教室へと向かうカシスだった。
『メリークリスマース!!』
教室に入った途端のことだった。
けたたましいクラッカーの音と、みんなの声が合わさってものすごい音になった。
カシスはおろか、シードルやカベルネまで耳を塞いでしまう始末。
「うわっ! 音大きすぎるよ・・・・!」
「他のクラスにメイワクだヌ~!!」
「今更何だよ、んなこたぁ承知の上だろうが」答えたのはキルシュの声。
一方、何が起こっているのかわからないカシスは半ば唖然としていたのだが。
教室内を見てみると、派手に飾りつけがしてあって、クラスメイト達が手にクラッカーを持ってこちらを見ていて。
「・・・・な・・・・何・・・やってんだ・・・・・・・?」
「あら、見てわからない?」とブルーベリー。
「わからねぇから聞いてんだけど」
「クリスマスパーティだっぴ!」ピスタチオが嬉しそうに答えた。
「・・・・はぁ!?」
ちょっと待て。ここは学校の教室のはずで。
これから学校の終業式があって、グラン・ドラジェの長い話があるはずで。
「お前ら・・・・・何やってんだ・・・・。仮にも学校だろ・・・」
「カリニモモナニモ、マチガイナク ガッコウデスゼ、ダンナ」とカフェオレ。
「んー。がっこうー」とショコラ。頭にハデハデな三角帽がのっかっている。
「アンタにそう諭されるとは思わなかったねぇ」皮肉まじりにレモンも答えた。
「たまにはこういうのもいいんじゃないか?」
「ガナッシュ! お前まで・・・・!」
「安心しろ、俺もつき合わされてるクチだから」
「ちょっとガナッシュったら~」
一体・・・何が起こっているんだ・・・・? なんで、みんなしてこんな・・・・・・
「驚いたかぁ!? そりゃそうだろうなぁ!!」
大声を張り上げながら、キルシュが近づいてきてカシスの肩にバッと腕を回した。
「照れなくてもいいんだぜ、言わなくてもいい。俺達ちゃんとわかってるからよ」
「・・・・な、何が・・・・・・」
わかってるって・・・・・まさか・・・? みんなにベラベラと喋ったのか、彼女が・・・・!?
しかし。
「ダチがいなくてクリスマスパーティもできなかったんだろ? いや、何も言うな!
俺達ゃ、わかってるからな、ちゃんと! 水くせぇよな、俺達の仲じゃねぇかよ!」
「んなっ!!?」
なんだそれは!? 思わずバッとフレイアを見てしまうカシスだったが、当の彼女はただニコニコ笑っているだけだった。
・・・余計なことを(よりにもよって)コイツに吹き込みやがって・・・・・・・
本当のことを喋られてもそれはそれで冗談じゃない話だが。
「そんなわけだから、ささやかながらクラスみんなでパーティしようって話になってね」とシードル。
「何がそんなわけだってんだ・・・・・ったく、付き合いきれねぇ・・・・・・」
「そう言わないで、カシス。楽しみましょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先生・・・・・・・?」
「大丈夫よー、どうせ他の人はここには来ないし、式にさえ出れば何してもオーケーよね」
ああ・・・・・先生からしてこうなんだから・・・・・・・
「ほら、プレゼントもあるのよ」
みんながそれぞれ色とりどりの包みや箱を手にした。
しかし・・・・・
「・・・それ、交換とかするんだろ? 俺は何も持って来てねぇから俺はエンリョし・・・・」
「それは違うよ」
「?」
みんなは手にしたプレゼントを一斉に差し出して。
『お誕生日おめでとう!!』
「・・・・・・・・・・・・・え?」
何を言ったんだ? こいつら?
「何呆けてんのさー」
不機嫌そうに傍らでシードルがブツブツ呟いた。
「今日誕生日でしょー? 何? 自分の生まれた日も忘れちゃったの?」
「・・・・・・・って、なんで・・・・・・・」
「なんでも何もないヌ~。そのまんまだヌ~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まだ呆然としながらも、クラスの皆を見渡した。こちらを見て、笑っていたりムッツリしていたり無表情だったり色んな顔。
その思いが自分に向けられている。
そう思った時。
「・・・・ばっ・・・かやろう・・・・・・・・・・・・」
うつむいてそう呟いて、思わず教室の外に駆け出していた。
「あっ!」
一瞬の出来事で、見送ってしまうクラスメイト達。
「いっちゃったよ~、どうしようフレイア~」
アランシアが困った表情で、隣にいた言いだしっぺのフレイアを見やった。
「・・・・・・・・・・ちょっと・・・話してくる・・」
と、彼の後を追いかけていった。
困惑する一同。
クリスマスパーティ・・・と称した誕生パーティ・・・・・・・悪いことをしてしまったのだろうか・・・・・
その沈黙を破ったのは、少女の声だった。
「・・・だいじょうぶだよ・・・・・・きっと・・・うれしかったんだとおもう・・・」
小さく笑って、オリーブが呟いた。
フレイアは学校の裏手・・・・人気のあまりない小高い丘まで来ていた。
やはり・・・・・・ここにいた。カシスは。
座り込んで膝を抱えて、何をみているわけでもなく何かを見つめていた。
「・・・・・・・・余計なこと・・・しちゃったかな・・・」
それだけ呟いて、反応を待った。
ずっと、一人でクールに生きていた彼には、あんな雰囲気はやりきれなかったのかもしれないと。
でも、ただ・・・・・・フレイアはこう感じたのだ。
みんながクリスマスだって騒いでいて、自分は違って、それでもやっぱりその日は特別な日で、クリスマスにかき消されるかもしれない、その特別な存在がちっぽけになって、なくなってしまうかもしれないって。
「・・・・・・・・・・・・・カシス・・・・・・」
やはり反応はない。
溜息をついて、立ち去ろうとしたところ。
「フレイア」
「・・・! な、何・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
次の言葉を待った。しかし、ずっと黙ったまま。
「・・・・・・・・・・・・後から行く。先行ってろよ」
「・・・え、うん・・・・・・」
意図がつかみきれないまま、その場を後にする。後に残されるのは少年一人きり。
本当に・・・・・・
なんでアイツには読まれちまうんだろう。
悪い気は全くしない。いや、むしろ嬉しくさえあった。
本当の思いをわかってくれる。
「・・・・・サンキュ」
誰とも無しに呟いて、カシスは立ち上がった。
しょうがねぇ、クラスではお兄さんだしガキどもの遊びに付き合ってやるか・・・・
鼻歌まじりに、彼は校舎へと歩いていった。
その日の帰り、彼は両手に抱えきれない荷物(プレゼント)を持たされて、やはり鼻歌まじりに家に帰ることになる。
END
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