森林瞬間消失事件
モイロロト村を出立して二日目。彼らは、モイロロト村よりさらに東に位置するという、とある領域に向っていた。
「ラキューオ」と呼ばれる場所へ。
岩山のふもとを越えると、そこからは広大な森林地帯だ。この森を北に抜ければ、湿地帯が広がっているはずだ。
森とはいっても、生き生きとした緑ではなく、どこか淀んだ緑。
そんな森の中で。
凄まじい大騒動が起ころうとは、きっと誰も予想していなかったに違いなかった。
一行は、ただひたすら東へと歩を進めていた。いくら急いでいるとはいえ、彼らとて全く休まないわけにもいかない。特に忍耐力のないお子様もいるだけに、その歩みは意外に遅かった。
しかし、事の発端は別にあった。
「ねぇねぇ、向こうにキレイな湖があるよ〜」
皆の疲れが溜まり、そろそろ休憩しようと歩みを止めた後だった。ちょっと、と向こうに行っていたアランシアが帰ってくるなりこう言った。
「湖ですの!? 死のプレーンにもあるんですの・・・」
「いいねぇ。ちょっと行ってこようよ」レモンが立ち上がる。
「そうしよ〜、も〜私、限界っぽいかも〜」
「私も行くわ。これ以上は我慢できないよ」
「女の子みんなで行きますの!! 楽しいんですのーー!!」
「男子は来んじゃないよ」
何やら盛り上がる女子達を遠巻きに見やる男子達。女子達はワイワイ言いながら「行ってきま〜す」と立ち去っていく。
「んだぁ? キラクだよな、女ってのは」とキルシュ。
「全くだヌ〜」背伸びするカベルネ。
「おいキルシュ、火ィつけてくれよ」
「おナカすいたっぴーーーーー!!」
「メーシ! メーシ! メーシ!」
「うるせぇ!! テメェで作れ!!」
「・・・・・男子も充分キラクだヌ〜」
とても、恐ろしい死のプレーンにいるとは思えないのどかさ。
「・・・・・・・・なぁカベルネ」
キルシュが訝しげな表情で問うてきた。
「なんだヌ〜?」
「アランシアのやつ、何が限界なんだ? 我慢とか何とか・・・・」
「・・・それは、アレだヌ〜。きっと、女の子の事情ってやつだヌ〜」
「大体、なんで女子達全員でわざわざ行くんだ?」
「キルシュ、ニブいヌ〜。女の子は色々タイヘンなんだヌ〜」
「・・・・・・・・・・・・・?」
それでも、やはり理解していない様子のキルシュ。カベルネはニヤニヤ笑うばかりだった。
それから、少し経った後だった。湖に行ってたハズのレモンが、一人で戻ってきた。
その表情には、憤怒の色が・・・・
「カシス」
「ん?」
「アンタ、ずっとここにいた?」
「ああ。いたけど」
「本当に?」
「・・・・何だよ」
ようやく、レモンを見やる。こちらを睨んでいる。
「ここに居たっていう、証拠は?」
「はぁ? なんでそんなのがいるんだよ。ここに居たっつってんだろ」
「カシスはずっとここにいたヌ〜」カベルネがフォローする。「レモン、一体、どうしたんだヌ〜?」
「・・・・・・・ダメ。カベルネの証言じゃ証拠にはならないね」
レモンは頭を振った。一方のカベルネはなんでだヌ〜!? と抗議する。
「そう言わせたとも考えられるしね。友達ならなおのこと」
「・・レモン。何のつもりだ? ケンカでも売ってんのか?」ゆっくりと立ち上がるカシス。
「それはこっちのセリフだね。正直に吐けば、半殺しで許してやるよ」
「何のことだ?」
「とぼけんじゃないよ。アタシだって、穏便に済ませたいしね。さぁ、吐きな」
「・・・やっぱケンカ売ってんだな・・・? 買うぜ、俺はよ?」
にらみ合う二人。一方、そのあまりの険悪さに、すっかり怯えているお子様たち。
これはいかん、とキルシュが割って入った。
「おいレモン、ちっとも話がわかんねぇんだけど、何があったんだ?」
彼女がギッと睨んでくる。相当怒っているようだ。思わずひるむキルシュ。しかし、負けてもいられない。
「な、なんだよ! 話わかんねぇのに、返事できるワケねぇだろ!」
「そ、そうだヌ〜、事情を説明して欲しいヌ〜。ケンカはよくないヌ〜」
レモンは、一言。
「・・・・・・ノゾキが出た」
一瞬の間だったに違いないのだが、恐ろしく長く感じられる沈黙が辺りを覆った。
「・・・・・ちょっと待て、レモン・・・・・」苛立ち始めるカシス。「それで、真っ先に俺を疑うか?」
「当然。つーか、アンタしかいない」
「待てっつってんだろ! ノゾキだって? 俺がそういうことをするヤツに見えるか?」
「見える(キッパリ)」
「テメェ!! だったら、俺だって証拠はあんのかよ! あるわけねぇよな、俺じゃねぇからな」
「・・・・確かに証拠はないけど・・・」少したじろぐレモン。「でも、アランシアが木陰が動いたのを見たってパニくっちゃっててね。アンタ達しかいないのよ。犯人候補はさ」
「通りすがりの誰かかも知れないヌ〜」
「こんなトコ、誰が通りすがるっていうワケ?」
うっ、と詰まるカベルネ。生き物は殆ど存在しない、死のプレーン。
「・・・・・う・・・・・・・あ、そうだヌ〜! ガナッシュかもしれないヌ〜」
「・・・フム、可能性はあるかもね」とレモン。「ノゾキなんかする可能性は無さそうだけどね。コイツと違って」
「コイツだとぉ?」
「落ち着くヌ〜!!」
「レモンちゃん!!」
と、今度はペシュが戻ってきた。
「ああ、ペシュ。捜査は難航してるよ」
「もういいですの。みんなを疑うなんて、イヤなんですの・・・・」
「でも、こういうことは白黒キッチリけじめつけとかないと。絶対、コイツに決まってんだから」
「俺じゃねぇっつってるだろ!」
だがレモンは聞く耳持たない。
「アランシアとフレイアは?」
「もうすぐ戻ってくると思いますの」
「そう。なら、それまでにカタつけとかないとねぇ」
言い放ち、彼女は魔法を構成し始めた・・・・
「ち、ちょっと待つヌ〜〜〜!! 何するつもりなんだヌ〜!!?」
「制裁」
「既に決め付けてるヌ〜〜〜〜〜!!!!!」
「助けてくれだっぴーーーーーーーー!!」
「オレらは関係ねぇかんなっ!!!」
ついに逃げ出すピスタチオとセサミ。あわてふためくカベルネ。
「レモンちゃん!! ケンカはダメですの!!」
「ペシュ、避難してな・・・ケガするからね・・・」
「レモンちゃーーーーん!!!」
恐ろしいまでの殺気と、激しい電圧が辺りを覆い始める。
「レモン! 落ち着けって!!」やや腰が引けているキルシュ。
「ああ〜〜〜〜!! ダメだヌ〜〜〜〜!! こんなとこで終わりだヌ〜〜〜〜!!
カシス、ウソでもいいから謝るヌ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「カベルネッ!! 余計なこと言うんじゃ・・・・!!」
「やっぱりテメェか・・・犯人は・・・・・・」魔法の照準を合わせるレモン。
「・・・・チッ、口で言ってもわからねぇな、もう・・・・」
戦いは避けられないようだ。戦いというか、度が過ぎるケンカが。
「ダメですのーーー!! ケンカはいけませんのーーー!! やめてくださいですのーーーーー!!」
ペシュが叫んでも、もう手遅れのようだった。
「ゴメンね〜、私が〜・・・・」
「いいから! それより早くしないと・・・・・」
少女二人が急いで森の中を駆けてゆく。しかし、間もなく前方で激しい轟音が響き渡った。
「・・・・遅かったみたいね・・」
「やだ〜!! 私のせいだ〜・・・私があわてたから〜・・・・・・」
「とにかく急ぎましょう! 誤解を解かないと、大変なことに・・・・!」
もうなっていたようだった。
森林地帯の一部分が、ポッカリと空洞になってしまっていた。
唖然とする少女達。うっすらと焦げたにおいと煙が立ち込めていた。
「・・・・・レモン・・・・・・・よね」
「あ〜〜ん、レモンったら激しすぎ〜〜!!」
程遠くない木陰に、ペシュとカベルネがいた。
「あ、フレイアちゃん! アランシアちゃん! 大変ですのーーー!!」
「うん、見たらわかる」
「レモンがキレたヌ〜〜〜!! もうペンペン草も生えないヌ〜〜〜〜!!!」
混乱気味。
「他のみんなは?」
「セサミとピスタチオは逃げ出したヌ〜。キルシュも多分その二人を追っていったと思うヌ〜。
で、カシスが交戦中だヌ〜」
「・・・やっぱり・・・・・」頭を押さえるフレイア。
「違うのよ〜、誤解なの〜! 早く止めないと〜・・・」
同時に再び爆音。急いでそちらに向う二人。
すると、完全にキレて暴れ回るレモンの姿が。あわててアランシアが声を張り上げた。
「レモン〜〜!! 待ってよ〜!!」
一方のレモンは完全に戦闘モード。
「アランシア! 下がってな! 危ないよ!!」
「違うのよ〜!! 勘違いだったの〜〜〜!! だから、やめて〜〜〜!!」
「・・・・えっ?」
レモンは急に熱が冷めたかのごとくアランシアに向き直った。
「・・・・・・勘違いって・・」
「勘違いっていうか・・・・よく調べたら・・・・・・・・ツボさんが・・・・・・・・だから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
今度は、彼女が唖然とする番だった。
そして、やおら後ろを向いて右手を上げた。
「ワリ! 誤解だったみたい。スマン!」
黒焦げになって倒れた木々に囲まれ、今度はさらにカシスが唖然とするハメになった。
「私って思い込みが激しいのかしらねぇ。気をつけないとダメねぇ」
何事もなかったかのように、談笑するレモン。
「ごめんね〜、私が騒いじゃったから・・・・」
「気にしないでよ、アランシア。突っ走った私も悪いんだし」
「うん・・・・でも・・・」
彼女はチラリと男子達を見やる。
それぞれ、とても何か言いたげな表情を見せていた。
「あ・・・」
流石に申し訳なさそうな顔をするレモン。
「いや、その・・・・・だって、男子は来んなって言ったし、それなのに来やがって、て思ったらとてもムカついたワケでね・・・・・
だから・・・・その・・・・・・・悪かったよ! どーせアタシが悪いよ!! 文句あるか!!」
『逆ギレすんなーーーーーーー!!!』
大騒ぎする男子&レモンを見やって、溜息をつく女子達。
「レモンったら、見境ないんだから〜・・・」
「みんな無事で良かったですの」
「全くだわ」
とはいえ、森の一部分が落雷によって焼失してしまった事実は変わらない。
落雷というか・・・・レモンによって。
絶対に彼女を怒らせないようにしよう・・・・皆が強くそう思った一件だった。
END
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