Palpitate of Memorial

 


「おめでとうございまーす!!!」

 盛大なファンファーレと、舞い散る紙吹雪、たくさんの拍手、取り囲む人々。
彼らは何が起こったのか理解できず、しばし呆然としていた。
そんな彼らにはお構いなく、たくさんの人々は彼らを取り囲んだまま、異様な盛り上がりを見せていた。
「お客様方は、このジェミティの百万人目の来訪者でございますーーー!!!
おめでとうございます!!!」


 その時も、彼らは普通にしていた。
ちょっとしたことですぐ口ゲンカに発展し、仲間達にはいつものことと置いていかれることもしばしば。
この時も、時空ステーションからジェミティにやってきていた彼らだったが、ささいなことで口ゲンカしていた彼らは仲間達に「先行っておくよ」と置いていかれ、やや遅れてジェミティに入ってきた。
・・・そしたら、こんな騒ぎになっていた。
「・・・・な、何が起こってんの・・・・・?」
「・・・・・・知るか、阿呆・・・・」
騒ぎの中心で、いまだ事態を把握できていない二人・・・ネル・ゼルファーとアルベル・ノックスは互いに顔を見合わせた。
「こちら記念品をどうぞ!! お客様方には本日、最大限に楽しんで頂けるよう、様々なサービスをご用意いたしております!! どうぞこちらへ!!」
ジェミティの従業員とおぼしき人々に連れられ、わけがわからないまま歩き始める二人。
中央の広場に特設舞台が設けられており、そこに連れて行かれる。
なにやら妙なスーツを着た男が、細長い棒(彼らにはよくわからなかったのだが、マイクという)を彼らに向けてきた。
「まずは、お名前を聞かせていただけますかー!?」
『・・・・・・・・・・・』
状況が飲み込めないが、ここは逆らわないほうがいいかもしれない。
「・・・ネル・ゼルファーだけど・・・」
「・・・・・・・・・アルベルだ」
「ネルさんとアルベルさんですね。ええと・・・・お二人は恋人同士なんですか?」
『な!!!』
あわてて否定する二人。
「違うに決まってるじゃないか!」
「フザけたこと言ってんじゃねぇ!!」
「いやいや、そんなに照れなくてもいいんですよ」
「違うって!!」
しかし男は聞いちゃいない。
「ジェミティへは今までお越しになったことはありますか?」
「・・・・・・何回か・・・・・」
「そうですか! いつもありがとうございます!!
さてお二人とも、これから百万人目記念イベントにお付き合いください!
ジェミティの楽しさを100%・・・・いえ、200%満喫していただけると思います!」
「・・・アタシ達そんなヒマじゃないんだけど・・・・・」
ネルは目をそらすかのように、周囲を見渡した。
観客がたくさん集まって、彼らに注目している。そんな中。
(・・・・・・フェイト!!)
観客に混じって、よく見た青髪の青年を発見する。
なんだか面白そうにイベントに見入っている。
「ちょっと! フェイト!! 何見物してんだい! 助け・・・・・・」
「ではお二人とも、こちらへどうぞ!!」
「あ! ちょっと!! 引っ張るなって! フェイト!! 他人のフリしてんじゃないーーっ!!!」
従業員やらバーニィやらに引きずられていく二人を、フェイト(含め仲間達)は優しく見守っていた。
「・・面白ェことになってるじゃねぇか」
「良かったわね、先に行ってて」
「あ、でも、ちょっぴり羨ましいかも・・・・」
「ここは仲間として、彼らを見守るとしよう」
彼らはうなずき合った。


 二人が連れて行かれたのはレース場。
ここは、バーニィ達を走らせてその順位を当てる、ギャンブル場だ。
「ここでは日夜バーニィ達がその自慢の足を競っている場所です。ここにいらしたことはありますか?」
「・・・・・・・いや・・・・」とネル。
さっきからアルベルはその隣でムスッとしている。
「百万人目記念としまして、ここで疾走するバーニィにお二人のお名前を命名させていただきます」
『はぁ!?』
その時、次のレースが始まるアナウンスが入った。
≪本日、記念イベントと称しまして新たなバーニィが参戦いたしました。
その名も、プリティ・ネルそしてアルベル号!! 皆様応援のほどよろしくお願いします≫
『ちょっと待てーーーー!!』
思わず彼らはコースを覗き込んだ。
そこには疾走するバーニィが並んでいたのだが。
ひときわ目立ったのが、ピンク色でかわいらしいバーニィと、こころなしか目つきの悪い黄色のバーニィと。
「・・・・・・・プリティ・・・なぁ」
「うるさいね!!」
そしてレースが始まった。
最初は横一線だったが、やがてピンクと黄色が先頭に立つ。
「・・・・・・・・・・・どっちが勝つかしら」
「そりゃ、俺のほうだろうが。当然だな」
「へぇ。何でか知らないけど大した自信だね。そううまくはいかないモンだよ」
一位二位争いの二匹のバーニィは、ずっと拮抗したまま最終コーナーへ。
その時。
ピンクバーニィが隣の黄色バーニィに向かって体当たりをかます!
黄色がバランスを崩して転がり、その間にピンクがゴール!
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
その結果に妙なものを感じる。
「・・・そうか・・・やっぱりテメェは狂暴ってことかよ・・・」
「か、関係ないじゃないか!」
「いやー!」妙なスーツの男が割り込んでくる。「どうでしたか!? まるで、お二人の分身みたいでしたねーー!! それでは、次の場所へ!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
お前に言われる筋合いはねぇっての・・・・・・・
とても納得のいかないまま、二人は再度連行された。




 それからもあちこち引きずり回され、いい加減うんざりしてきた二人。
そんな二人の様子を察してか、
「お二人とも、次が最後になります」
妙なスーツの男が言った。やっとかと溜息をつく二人。
そこは建物の中だった。いくつかの扉が見える。
「別々の部屋に入ってください」
言われるがままに別室に入る二人。
中には、なんだかたくさんの衣服。アルベルは眉をひそめた。
と同時に。
「ちょっと待ちな!! なんでこんなの着なきゃ・・・!!!」
隣の部屋から聞き覚えが嫌ってほどある女性の怒声が。
もしかしてここは・・・・・・何だっけ、こす・・ぷれとか言う場所なのか・・・・・?
「この服をどうぞ」
「待て! なんでそんなことに付き合わなきゃならねぇんだ。もう帰るぜ」
きびすを返して部屋から出ようとするも・・・・・
「鍵かけんじゃねぇ!!!」
「まぁまぁ、もうコスプレされてるんですし、もう一回だけ、ね?」
「これは別にそんなんじゃ・・・・!」
「ささささ、こちらへどうぞ!」
「人の話を聞けーーー!!」


「どんな格好してくるのかなぁ」
「カップル扱いされてたみたいだし、期待したいところね」
「でも想像つかねぇよな」
「写真の用意もバッチリだよ」
 ああ、彼らの仲間達もしっかりと外で野次馬・・・・・もとい、二人の行く末を見守っていた。
やがて、ネルが入った部屋の扉が開く。
そこから現れた姿に、ソフィアとマリアは溜息をついた。
「ネルさん・・・・・・キレイ・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぁ・・・・・・・・・・素晴らしいわ・・・」
「ア、アンタ達・・・・・・・」
ネルは恥ずかしさに真っ赤になった。
まるで可憐なお姫様よろしく、薄いピンクのドレスに身を包んだまま。
「ほう・・・・・いいんじゃ・・ねぇか・・・?」しげしげと見つめるクリフと。
「ネルさんー、笑って笑って」カメラを構えるフェイトと。
「コ、コラ、フェイト! 何してんのさ!! それ、かめらってヤツじゃないのかい!!」
「似合ってますよ、ネルさん・・・・・」また溜息をつくソフィア。
「・・・・で、ネルがこれってことは・・・・・・」マリアがもう一つの部屋の扉を見やる。「・・・・・想像つかないわ・・・・悪いけど」
と、もう一つの扉も開いた。
非常に不愉快そうな表情で現れる男。その格好は、どこぞの国の王子様。
彼らの視線は釘付けになった。そして。



「「「「「あーっはっはっはっはっはっ!!!!」」」」」




大爆笑。仲間達のみならず、ネルまでも。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・テメェら・・・・ジロジロ見るんじゃねぇ!!」
完全に真っ赤になって、わざとらしくそっぽを向くアルベル。
「ご、ごめ・・・・・・あははは・・・・・・」
「ひーっひっひっひ・・・・・いや、参ったぜ・・・」
「あ、やだ、涙が・・・・・」
「・・・・・わ、悪い・・・・・とにかく笑って笑って」
「何撮ろうとしてんだテメェ!!」
「・・・・アンタ・・・・・・そういうの本当似合わないねぇ・・・・・・」
「やかましい! ・・・テメェだって・・・・・・!」
似合わない。そう言おうとしてネルを見やったのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・? 何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あ、いや・・・・・・・・・・・」
顔をそむける。正視できなかった。
・・・・・綺麗だったから。
「お二人ともー!!」
また、妙なスーツの男がやってきた。
「すごくお似合いですよ、お二人とも!」
「・・・(本当にそう思ってんのか・・・・?)」
「では、最後の締めくくりとしまして、お二人の記念撮影をば・・・・・」
「え、ちょっと!」思わずネルが叫んだ。
「お二人とも絵になりますからねぇ。並んで写って下さい。・・・なんでしたら、彼女を抱きかかえて貰って・・・・・」
「待ちなって!! アンタねぇ・・・・・・!」
つっかかりかけたネルの体が不意に抱きかかえられて宙に浮いた。
アルベルだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、ア、アンタ・・・・・」
「さっさと終わらせようぜ。ごねてもしょうがねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
確かに・・・それはそうだ。しかし・・・・・このシチュエーションは・・・・・・・
「・・・下ろしてよ」
「ん? 気にすんな」
「何言ってるんだい! ・・・・ち、ちょっと・・・みんな見てるし・・・・」
ますます真っ赤になって、横をチラリと見るネル。
ソフィアやらマリアやらはもうときめき乙女モード全開。
「ネルさん・・・・綺麗です・・・・」
「はぁ・・・・・・羨ましい・・・・・」
「俺たちに構わずに、もっとくっつけよ」
「笑って笑ってー。こっち向いてー」
男達も楽しんでいる。ネルはバツの悪そうな表情を浮かべた。
「・・・・はい、ありがとうございます!! いやー、お似合いのカップルですねー」妙なスーツの男が何か持ってこちらにやってくる。
撮ったばかりの写真のようだった。
ネルを下ろすアルベル。
「もう脱いでいいんだな?」
「はい、どうぞ着替えてください」
「はぁ・・・・・疲れた・・」
本当に疲れた表情で彼らは溜息をついた。
でも、まぁ・・・・・なんだかんだいって楽しんだかもしれない。
アルベルはネルを見やる。
つい連中に付き合ってしまったが。思った以上に彼女が綺麗で、思った以上に彼女が軽くて、ガラにもなく色々想像したりしてみて。
たまにはこういうのも、悪くはないな。そう思った。

「あ、そうそう、お二人とも」
 呼ばれて、二人はそちらを見た。
「この写真、百万人記念像のモデルに使わせていただきますんで」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』




像のモデル?
この写真が?
ムスッとしつつも楽しげに写っている、二人の写真。
それはまるで、隣国のお姫様を迎えにきた王子様よろしく、彼女を抱きかかえた姿。


『それだけはやめろーーーーーーーーーー!!!!』





 後。記念像の建設に断固反対した当事者二人が暴れたことによって、ジェミティ市は大きな混乱を招きその復旧に多大な時間と労力を費やしたため、像の建設は見合わせられたという。
しかしながら、彼らの仲間達はひそやかに像の建設推進派として、陰ながら暗躍していたとかしていないとか・・・・・・





END




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