Justification For Existence

 


人は、生命の危機にこそ、その本性を現すのかもしれない。






毎日が命を賭けた戦いの中で。
いつ死ぬかもわからない時間の中で。







「・・・くっ、数が多いな・・・・・・・」
「援護するわ!」
「こっちは平気だ! マリア、お前はあっちを・・・・!」

そこは戦場。
人と人との戦いではない、己の存在意義を確かめるものではない、単なる命のやりとり。
「戦争」とは全く違う、戦い。

「・・・・いくら倒しても、キリがないね・・・・・」

思わず呟いていた。
ずっと戦い続けて、一体今自分がどうなっているのかもよくわからない。
ただ、生きるために戦う。
死なないために戦う。

でも・・・・・それって何の意味があるんだろう。


生きることに意味がないとは思わない。
ただ、それだけの為に戦っている、それを考えるといつも疑問が頭をよぎる。
何のために、戦っているんだろうって。



「ネルさん!」





フェイトの声?


振り向こうとしたけれど、視線がグラついた。
何故?


遥か向こうに青い髪が見えた。そんなに遠くにいるはずでもないのに。
さらに何か叫ぶ声が聞こえた。よく聞き取れない。


目の前で世界が横転した。




何が起こったの? よくわからない。
さらに世界が揺さぶられて、それで頭が少しだけハッキリして。
目の前に、肩に触れる金属と横顔が見えた。


そして、真っ赤に燃える炎を見た気がした。


















「・・・・・あ、気付いたんですか!?」

・・・・・どことなく嬉しさを含んだ、少女の声。
何が起こったのかわからない。でもどうやら一瞬気を失っていたらしい。
でも。

「・・・・・・なんで、アタシ」

ベッドなんかで寝てるんだい?
そう問いかけようとした時、他の連中がこちらに近づいてきたようだった。

「・・・・どうやら無事みてぇだな」
「流石は紋章術・・・ってところかしら」
「そんな・・・・・」
「大丈夫ですか? ネルさん」

仲間達の声。

「・・・ネルさん」
そのうちの一人、フェイトが笑いまじりに呟く。
「その表情、何が起こったかわからない・・・・って感じですね」
「・・・・・フェイト」
「危うく死ぬかもしれない程の大怪我だったんですよ?」

・・・え?

「ソフィアの術で怪我は治ったけど、二日も意識がなくて・・・・・・」
「さっき寝息が聞こえたから、大丈夫かもって思いました・・・・良かった・・・・・」

二日?
思わず体を起こそうとするも・・・・体が動かなかった。

「あ、ダメですよ! まだ安静にしてないと!」
「ソフィア、アタシ・・・・」
「大丈夫ですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

あのとき・・・・・もう感覚がマヒしていたのかもしれない。
とりあえず・・・・助かったんだ・・・・・
死ぬわけにはいかない。まだ、やることがある。
それでも・・・・・・

「しっかしよ」
クリフが声を上げる。
「アイツの変貌っぷり。お前に見せてやりたかったな」
「・・・・・アイツ?」
「そうだね」横からフェイトが。「そういえば今いないけど・・・・・・照れくさいんだろうね」
「そんなガラでもないでしょうに」とマリア。「こういう時にこそ、素直になるべきなんじゃなくて?」
「アイツがそんなキャラかよ」
「それはそれで不気味だよ」
「言うわね貴方たちも」

雑談に耳を傾けながら・・・・・そういえば確かに、この場にいない男がいることに気付いた。
・・・・・こんな場に姿を現すような男ではないけれど。

・・・今は会いたくない。何故かわからないけれど。
どうせ、罵られるに決まってる。












窓の外の月明かりがやけに眩しく感じて、ふと目を覚ました。
すっかり夜も更け、静かだった。
どうにか体も動いたので、窓を向いていた体を返して窓に背を向ける。

そこで、初めて気付いた。
すぐ横に、誰かいることに。

焔の瞳を持つ男。



そいつはジッとこちらを見ていた。動けなかった。
そのまま、しばらくの時間が過ぎた。

・・・・・気まずかった。

何か、喋ってくれれば反応できるのに。
こちらから話を持ちかけるのはとてもためらわれて。
居心地が悪い。
いつものように、悪口雑言でも投げかけてくれれば・・・・・・・・!

「・・・・・おい」



「何?」
すぐに反応してしまってから、ちょっと速過ぎたかと思った。
まるで、話し掛けられるのを待っていたみたいに思われるのは癪だった。
「・・・さっさと寝ろ。明日も早いんだからな」
・・・・・・はぁ?
「さ、さっさと、って・・・・・・!」
思わず、堰を切ったように言葉が出てきた。
「何言ってんだい・・・! すぐ横にアンタみたいなのがいたら、気になって寝れるわけないじゃないか・・・・!」
「さっきまでグースカ寝てたろうが」
「その時はいなかっただろ!」

不意に、そいつが笑みを浮かべた気がした。

「・・・もういつものテメェだな」
「・・・・・・・な・・・?」
「邪魔したな」
そいつはそれだけ呟いて、背を向けると部屋から出て行った。



何?
もしかして、あれで心配でもしてくれてた?





そういえば・・・・

意識が途切れる直前に、あいつの顔が目の前にあった。
とても歪んでいた。悲しみと焦燥に。





ああ、そうなんだね。
そのために戦うんだ、私は。


私が倒れたら悲しんでくれる存在(ひとたち)を悲しませないために。
それだけで、充分じゃないか。








私は今生きている。戦っている。そしてこれからも生きるために戦っていく。
それはとても大事なこと。



あの悲しみを帯びた炎の色を私は忘れない。






END





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