Daybreak

 

それは、ある日の朝。

「アンタ、たまには髪下ろしたままにしてみたらどう?」

「あ?」

「あ? ・・じゃないよ。だから、たまにはそのままでいたらどうかって言ってんの」

「・・・・何言ってんだ、お前・・・・・・頭沸いたか?」

「・・・・そんなに馬鹿な発言じゃないと思うけど」

「阿呆。んなことしたら、鬱陶しいだろうが」

「何が鬱陶しいのさ。戦闘中に跳ね上がるあの触手の方がよっぽど鬱陶しいよ」

「触手じゃねぇ! 大体、戦闘中に髪をまんまにしてたら、邪魔だろうが」

「ならいっそ切ればいいじゃないか」

「阿呆」

「何が阿呆なのさ」

「阿呆だから阿呆だ。まったく、付き合いきれねぇな」

「・・・・・・何よ、それ。・・・切るのも面倒くさいっていうつもりかい?」

「・・・・フン」

「そうだね、ならアタシが切ってあげるよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

「切れば、戦闘中に邪魔にもならないし、触手もなくなって私達も言う事ないし」

「ま、待ちやがれ! 何勝手なコトぬかしてやがる!」

「何逃げ腰になってんだい。いいじゃないか、減るもんじゃなし」

「減るだろうが! とにかく、んな阿呆なマネはさせねぇからな!」

「ジタバタしないんだよ!」

「ってぇ!! 引っ張んじゃねぇ!!」

「暴れると手元が狂うよ、おとなしくしな!」

「お、おいテメェ! 何、手にしてやがんだ!」

「護身刀”竜穿”」

「普通に答えるな! 何武器持ち出してんだっ、そういうときは普通ハサミとか使うもんだろうが!」

「おや、ハサミならいいのかい」

「いや! 駄目だ!」

「・・わがままだねぇ・・・・・いい歳した大の男がみっともない・・・・・」

「関係ねぇ! いいからさっさと着替・・・・・テッ!!」

「だから逃げるんじゃない」

「逃げてねぇ! そもそも俺は了承なんかしてねぇ!」

「短い髪もいいもんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・いや、俺はこのままでいい」

「洗うのもラクだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「うざくないし、暑くないし、毎朝手間かけてまとめる必要もない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんで、そこまで長いのにこだわるんだい」

「・・・・・・・・・・・・・・なんだっていいだろうが」

「またそうやって誤魔化して。そこまで嫌がるからには、それ相応の理由ってもんがあってもいいんじゃないの?」

「・・・あったとしても、テメェにそれを話す必要はねぇ」

「そうか・・・・・じゃやっぱり散髪の刑だね」

「やっぱりってなんだ! つーか刑罰なのかよ! 言わねぇだけでなんで一方的に切られなきゃならねぇんだ! テメェにその権利があるってのか!」

「ある」

「その根拠はなんだっ!!」

「不本意ながら、アタシはあんたの面倒見なきゃいけない立場にあるから」

「・・・・・・面倒だと・・・・?」

「他の連中じゃ、アンタみたいな狂犬は扱いに困るみたいでね。不本意ながら、アタシが色々とアンタを世話しなきゃいけないんだってさ。不本意ながら」

「3回も言うんじゃねぇ」

「他のみんなも、口には出さなくても思ってるよ。その髪うざいって」

「ハッキリ言うんじゃねぇ」

「ならなんで切りたくないの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・9年」

「え?」

「最後に切ったのが、それくらい前になるな」

「・・・・・そ、そんなに伸ばしてるのかい・・・・・? なんで・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・9・・・年・・・・・・・って、まさか・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・そう、か・・・・・・いわゆるけじめってやつ?」

「・・・・けじめとは少し違うがな」

「そう・・・・・・その気持ちわからなくはないかもしれないね・・・・・」

「テメェに何がわかるんだ阿呆」

「だから、わからなくはないかもって言ってるじゃないか。本当のアンタの気持ちなんて、誰にもわからないよ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「どれだけ一緒に旅しても、一緒にいても、わからないものはわからない。・・・・・もっと、わかってるつもりだったんだけど・・・・・・」

「・・・・・そんな顔すんじゃねぇよ」

「・・・アンタこそ情けない顔してるよ」

「してねぇよ」

「・・・・ふふふ、しょうがないから、刑は勘弁してあげようかな」

「おい。何が『勘弁してあげよう』だ。そんないわれはねぇよ」

「あはははは・・・」

「笑い事でもねぇ」

「ねぇ、最初に話を戻すけどさ・・・・・今日くらい髪おろしてみたら?」

「はぁ? まだ言ってんのか」

「カッコイイと思うけど」

「・・・・・っ、・・・・は・・・?」

「風になびく髪なんて、なんかカッコイイじゃないか。アタシには無理だけど」

「・・・・・・・・・・・長くても短くても関係ねぇよ」

「え? 何か言った?」

「何も言ってねぇよ。ほら、いいからさっさと着替えて下行くぞ。連中待ちくたびれてるんじゃねぇのか」

「・・・普段待たせ放題なアンタに言われちゃ終いだよね・・・」

「何か言ったか?」

「何も言ってないよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フン」

「・・・ん? アンタ・・・・・」

「なんだ?」

「・・・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・」

「テメェもさっさと来い」

「・・・・・・・・・・・・・・(髪・・・・まとめてないよね・・・・)」

「どうした?」

「・・・いいえ。さ、行こうか」

それは、ある日の朝。
何の他愛もない日常の1コマ。





END





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