Lost Time

 


 いつでも感じる。
闘神のごとく戦い続けるその姿に、もう一つ重なる違う姿を。




「・・・そろそろいなくなったか?」
「みたいね・・・・・全く、こうも戦いばっかりだと気が休まらないわね・・・・・」
「そうだね・・・・・早くルシファーと決着をつけないと」

 戦いがようやく終わって、仲間達が一息つく。
私も手にした短剣を鞘に収めた。
そして・・・・・ついあの男を見やった。

相変わらず・・・・仏頂面で立ち尽くしている男の姿。

戦いの時はあんなに楽しそうにしているのに。
でも・・・・・・・・・

「今日はこれくらいにしておこう。休まないと体がもたないよ」
「そうですね、休息も必要ですから」
「じゃあ、街に戻ろうよ」

誰からともなく歩き始める仲間たちに続いて、私も歩き出そうとした。
でも、あの男は立ち尽くしたままだった。

「どうしたんだい。行くよ」
「・・・・・・・・・・・・ああ」

それだけ呟いて、男は歩き始めた。
黙って私の横を通り過ぎる。その背中を見つめ、私は嘆息する。
本当に相変わらずの態度。
・・・・・でも、その背中は何故か小さく見えたような気がした。




 その日の夜はなんだか寝苦しくて、ふと目を覚ましてしまった。
窓から薄い月明かりが室内をうっすらと照らしていた。すっかり目が冴えてしまったので、気晴らしに散歩しようと思い立った。
部屋の扉を開けて廊下に出ると・・・・数部屋向こうの扉が開け放してあるのに気づいた。
確か、あの部屋はアイツの・・・・・・
コッソリと中を覗いてみたら、アイツはいなかった。同じように寝付けなくて散歩にでも出ているのだろうか。
気にせずに廊下を歩いて、ホテルの外に出た。
外はすっかり寝静まっていて、誰もいない。

・・・・・ただ一人を除いて。

何をするでもなく佇んで、月を見上げているその背中はやはり小さく見えた気がした。

「アルベル」
呼んでみた。それに反応して、アイツが振り向いた。
「・・・・・なんだ、テメェか」
「なんだはないだろう」
ゆっくりと近づいていく。アイツはこちらに向き直った。
「寝れないのかい?」
「・・・・ふん」
そっぽを向く。いつでもコイツはこうだ。
月明かりに照らされた彼の横顔が、なんだか物憂げに見えた気がした。
「・・・ねぇ、ちょっと散歩しない? どうせ寝れないんだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
即座に否定しないということは、肯定の意味なんだろう。
歩き始めると、後ろから彼はついてきた。

「ねぇ、アンタって・・・・」
「・・・・・何だ」
「どうして、あんなに楽しそうに戦うんだい?」
「・・・・・・・・・・・・・・戦うのが好きだからに決まってんだろう、何を言うかと思えば・・・」
「本当に?」
「・・・・何でそんなことを聞く」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
戦っている時に、一瞬映る違う姿。

行き場がなくてもがいているような苦悶の表情。

好きだから戦っているというより何かを探し求めて戦っているような、そんな表情を時々見せる。
戦うことで、何かを変えようとしているのか・・・・・

「・・・なんとなく、本当にそうなのかなって思っただけさ。他意はないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

男は黙った。答えたくない時はいつも黙る。
答えたくないということは、真実だからかもしれないけれど。

「・・・・別に言いたくなきゃ言わなくてもいいけどさ。でも時々・・・・・・」

ただひたすらに戦うアンタを見てると、死に急いでいるような感じがして不安になる。

「・・・アンタにとっては戦うって行為は、そんなに意味のある行為なのかなって思うこともあるよ」
「どういう意味だ」
「・・・・・・なんていうか・・・無理しているっていうのか・・・」
「何を言う、阿呆。どこをどう見たらそうなるんだ。俺にとっちゃ戦いってのは生き甲斐みてぇなモンだ。
戦っていれば、自分でいられる。強くなればなるほど、俺は俺でいられるんだ」

一気に喋って、後方で息を飲む雰囲気が感じ取れた。喋り過ぎたと言いたげな。

「だからって、命を賭けて戦う必要はないんじゃないのかい・・・・強くなる方法は他にだって・・・・」
「黙れ阿呆! テメェに何がわかる」
語気が荒くなった。でも、それすらも、強がっているように聞こえた。
本当はコイツだって気づいているのかもしれない。
戦うことでしか自分を見つけられない、その空しさに。

戦い続けて、もがき続けて、それでもその先に出口が無かったら、彼はどうなってしまうんだろう。

私は彼に向き直った。
「私にはアンタの感覚はわからないけど。でもアンタも違う道を探そうとしていない。
それが良いのか悪いのかはわからないけど、このままじゃ何も変わらな・・・・」
「うるせぇ!!」

だんっ

痛っ・・・・壁に押し付けられる。
紅の双眸が私をまっすぐに捉える。
「・・・・・・・・・んなこと・・・・」
え?
「・・・・・・・言われるまでもねぇよ・・・・」

一瞬。

行き場がなくてもがいているような苦悶の表情を見せた。


そしてそのまま抱きしめられた。













 体が離れた時、もう彼はいつもの表情だった。

「・・・・まじで、お前には参るな」

それだけ、呟いて彼は背を向けて歩き出した。



今度は私が立ち尽くしてしまった。








「誰にも言うんじゃねぇぞ」

部屋に帰りがけ、彼はそう告げた。
・・・・私だって、わざわざ言ったりするもんか。

「おやすみ」
「・・・・・ああ」

短く返事をして、彼は部屋の扉を閉めた。ついため息をつく。
そして。
いつの間にか、彼のことを理解しようとしていた自分に気づいて、思わず笑みを浮かべた。
彼も(咄嗟のことだったのだろうが)自分のことを話してくれた。
それだけで充分だよね、今は。
いつか、もっと近い道に歩み寄れたらいいと思う。

「・・・・まだいるのか? 入りたいんなら開いてるぞ?」

!!!!

「だ、誰が!! おやすみっ!」

あわてて部屋の前から立ち去って自室に戻る。
・・・・・まだまだ、歩み寄るのは難しいみたいだ。

ゆっくりでいいよ。
私もアンタも、自分の歩く道の先に出口を見つけられるまで・・・・・





END





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